妖怪については直接テーマとすることはあまりないが、論考中に言及することは少なくなかった。
執筆期間は明治44年の『東洋学芸雑誌』への寄稿を発端に、柳田國男との交流を経て、『郷土研究』を主たる投稿先とする。しかし、昭和8年以降は妖怪を取り上げる論考を書かなくなる。
対象としては、一本ダタラ、カシャンボ、キツネ、天狗、栗鼠などを主に取り上げる。これらは和歌山県の特色ある妖怪であり、また熊楠自身、身近に見聞したものだったと思われる。
事例は身近に見聞した事柄・話から諸外国の文献や見聞譚まで並べて比較分析する。主に日本の事例の起源として大陸の事例を位置づける。
ただし、日本各地の事例を並べることなしない。あくまで、自分の見聞したことを主としている。
傾向として、妖怪をそれ自体というよりも、説話として捉え、分析しているようである。また関連する生物もしくは植物を扱うこともある。
柳田國男や江馬務が妖怪の全体的把握を試みたのに対して、熊楠はどこまでも個別的な事例の分析に終始したということができるだろう。
(文・伊藤慎吾)
以上、第61回異類の会(2016年2月24日)の発表要旨です。
※次回は3月23日(水)14時、國學院大學にて開催予定です。
会場:大東文化会館4階K-404教室
http://www.daito.ac.jp/file/block_49513_01.pdf
(最寄駅:東武練馬駅)
発表者:塩川和広氏
題目:「百鬼夜行の魚介をめぐって-蛤の妖怪を中心に」
要旨: 中世から近世にかけて数多く制作された百鬼夜行絵巻と総称される絵巻群には、多くの異形異類が描かれている。その多くは禽獣や道具をモチーフとしたものだが、一部の伝本には蛤、栄螺、蛸の三種の魚介が登場する。本発表ではこの魚介の異形、特に蛤に注目し、なぜ魚介が百鬼夜行に並んでいるのかについて考えていく。
古代より狐憑き現象は存在したが、次第に狐を使って人に憑ける使役者の存在が想定されるようになり、やがて「狐持ち」といわれる特定の家筋を生じさせるにいたった。
近世におけるクダ狐の性格は、修験などの専門家が扱うもの、という認識が色濃いが、一方で特定の家筋にまとわりつくものという認識もあった。
狐憑きをめぐる俗信は差別も生んだが、近年ではクダ狐やオサキがマンガやアニメ、ゲームのキャラクターに用いられるなど、憑きものを取り巻く意識の変化も見られる。
(文・佐伯和香子)
以上、異類の会第55回例会(2015年7月29日・於大東文化大学)発表の要旨です。
次回予告
8月26日(水)16:30〜20:00
今回は、古典文献資料と絵画資料の二点から、「ネコマタ」の描写の変遷を追った。
「ネコマタ」の初出である『明月記』の記述や有名な『徒然草』からは、「ネコマタ」の外見的特徴としての「二股に分かれた尻尾」というものは存在せず、犬のように大きな害獣という扱いをされていた。そして時代が下り、江戸時代初期頃になってきて、段々と「二股に分かれた尻尾」の記述が見られるようになり、「ネコマタ」という言葉の由来をその「二股に分かれた尻尾」とする記述もされるようになり、以降それが定説として扱われるようになった。
絵画資料においては少々異なり、江戸初期頃の本の挿絵に「二股に分かれた尻尾」を持つ猫の怪の絵が登場するが、それ以降も一本の尻尾しか持たない猫の怪や、そもそも尻尾の描写が省略されている(着物を着て、裾に隠れている)猫などが描かれており、定型化されていない。
「ネコマタ」という語の語源に関して、今回は二つの推測例を上げた。猫の古語的読みである「ネコマ」からの転化と、「猱」という字からの由来の二つの説である。
「二つに分かれた尻尾」の由来としては、御伽草子などで知られる「玉藻前物語」の古い記述を紹介した。今でこそ一般においては「九尾の狐」と認識されている玉藻前だが、中国からの「九尾狐」伝来以前は、「二本の尾を持つ狐」と記述されていた。この設定が、後に猫の怪である「ネコマタ」に派生したのではないか、という推測である。
今回の発表は確たる証拠に乏しい点が多く、今後のより精密な調査を必要とするものだが、少なくとも「ネコマタ」の最大の特徴であるとされる「二つに分かれた尻尾」が後世に何らかの要因によって後付けされたものである、という事は結論として言えるのではないかと思う。(文・発表者 毛利恵太氏)
以上、異類の会第53回例会(2015年5月2日・於大東文化大学)発表の要旨です。
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