タイトル: 「豊都鬼城」からみる現代中国における鬼のイメージ
発表者:
李江龍氏
要旨:
現在、中国重慶市の「豊都鬼城」は鬼に関する観光地として人気がある。
1980年代に成立した「豊都鬼城」は中国の重慶市豊都県に位置し、冥界や鬼を題材として、鬼の文化を宣伝する場所である。そこでは、冥界の鬼たちのオブジェや「天子殿」、「鬼門関」など有名な冥界の風景を再現している。豊都には「あの世の都がある」という伝説が流れたため、「幽都」、「鬼都」などの別称もある。 現在、中国で鬼が幽霊のことを指すのは一般の認識である。しかし、現在、中国の重慶市豊都県に位置する鬼に関する観光地「豊都鬼城」の事例から見れば、鬼のイメージは必ずしも幽霊ではなく、非常に多様化している。既存の研究は、豊都鬼城の歴史文化や文学、観光開発に注目しているが、観光対象と化した鬼の持つイメージへの関心は充分とは言えない。本研究は中国重慶市の豊都鬼城に焦点を当て、具体的に鬼の姿かたちと鬼に関する説話を手掛かりに、現代中国における鬼のイメージの具体像を捉える。 豊都鬼城において、鬼のオブジェは「鬼門関」と「天子殿」という2つの建造物に集中している。「鬼門関」にある鬼の像が「酒鬼」「才鬼」のように、身体や道具の誇張化と肥大化を特徴とするのに対して、「天子殿」の鬼は黒色を主としている。 大きな桶を抱く「酒鬼」に祈願すれば、酒仙と同じくらいお酒に強くなり、才鬼が挙げる巨大な硯に触れば、試験の成績が上がると言う。この例にみるように、観光地における鬼のイメージを理解するには、観光客の存在が与える影響を見過ごすことはできない。また、鬼が纏う黒色は、中国の民間信仰では常に葬式や死と結びつき、不吉なイメージを強く帯びている。また、黒色の鬼が成立した一因は、中国の風水思想を切口に豊都鬼城と深い関係がある道教の神様、鄷都北陰大帝からの影響に求められる。このように、豊都鬼城における鬼のイメージが形成される過程では、死に関する民間信仰や道教からの影響を受け、観光客が抱く現世利益の要望と絡み合っている。 一方、観光客と地域社会は常に軋轢が生じている。豊都県で鬼に関する伝説が流布しており、鬼が観光地で潜んでいる矛盾を読み解く媒体となる。鬼の娯楽化及び観光開発に対して、地域社会が観光化された鬼のイメージをそのまま受け入れることは難しく、その反発する姿勢が見られる。(文・李江龍氏)
*これは11月23日(土)にオンライン(Zoom)で開催された第149回の要旨です。
*上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
*次回は12月27日(金)15時にオンライン(Zoom)で開催予定です。
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