異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
(1)タイトル:
ザシキワラシの原像〜悪戯のもつ意味〜
発表者:大林脩史氏
要旨:
ザシキワラシは家に富をもたらす福の神として広く世間に受容されてきた。本発表では先入観にとらわれることなく、自らの手で収集した事例を基盤に置き、その分析から柳田が作り出したザシキワラシ像を再検討し、その原像を探っていくことを目的とする。
第一章では、ザシキワラシの〈就寝中の悪戯〉に着目して論を進めた。まず、伝承の中身であるザシキワラシの《行動》に着目し、ザシキワラシ譚内での〈就寝中の悪戯〉の立ち位置について確認した。次に事例を〈就寝中の悪戯〉に絞り、要素分解表を作成、それに対して分析を加えた。分析の結果として、〈就寝中の悪戯〉は「夜にザシキワラシが悪戯を仕掛けてきて、人を眠らせない」ことを核としつつ、その背景に実際の「金縛り」体験がある伝承なのではないかと考察した。最後に生理学的な「金縛り」と〈就寝中の悪戯〉の事例を比較し、その考察を確認した。
第二章では、ザシキワラシを体験する感覚を軸に据え、その変遷を年代的に追っていくことで、その原像に迫ることを試みた。まず、体験感覚に着目した年表を作成し、ザシキワラシの体験感覚が視覚化してきていることを示した。次に視覚に依らない〈聴覚〉〈触覚〉によって体験される事例が古い年代に多いことを確認し、それらの体験感覚と強く結びついている《行動》が〈就寝中の悪戯〉であることを割り出した。最後に、ザシキワラシは視覚的に体験する事例が多いという指摘に対し、「金縛り」の観点から説明を試みた。
以上の二章をもって、ザシキワラシの原像は、就寝中の人々に対して悪戯をしかける姿にあると私は考えた。ザシキワラシは元来、「金縛り」という不可思議な現象を説明するための一種の装置であったと考えられる。正体不明の息苦しさや体が動かないという症状を、人々は様々な悪戯を仕掛けてくる子供の姿をもって解釈した。「金縛り」は生理学的現象であり、人である限り誰しもが体験する可能性がある現象である。この様な背景を持っているが故に、ザシキワラシは盛岡藩領内で広く人々に語られるに至ったのではないだろうか。
(2)タイトル:
偽汽車はどこへ消えたのか―都市伝説の変遷とその再認識について―
発表者:大江夏葵氏
要旨:
本研究は、明治から大正期にかけて日本各地で広く流布した、 狸や狐が汽車に化けて鉄道運行を妨害する説話、いわゆる「 偽汽車」を対象とし、 その発生構造と社会的背景を解明することを目的とする。
まず、「偽汽車」の基本構造を分析すると、「 夜間に正面から来るはずのない汽車が出現し、 汽車を停めたところ、 正面から来ていたはずの汽車は消えてしまう。 このことが何度か繰り返されるので、停めることなく直進すると、 何事もなかったかのように通過できる。翌朝、 正体である狸や狐の轢死体が、線路の付近で見つかる」 という流れの定型を持つ。先行研究や新聞記事によれば、 この説話の起源は、 線路上で実際に発生した動物の轢死という事実に求められる。 鉄道という未知の巨大な鉄の塊と、 線路上で轢死した動物という2つの存在に対して、当時の人々が「 狸や狐は化けるものである」 という伝統的な観念を事後的に結びつけ、「 狐狸が化けて汽車を止めようとしたが、力及ばず轢死した」 という物語が生成したのではないだろうか。
今回収集した全107事例の分布調査からは、 地域的な特性が明確となった。東京都(20例)や群馬県( 13例) などの鉄道網の結節点や早期開業地に事例が集中しており、 これは物流や人の往来を通じて説話が伝播したことを示唆している 。また、長野県では「玄蕃之丞」 など以前より存在していた狐の伝承との結びつきが見られるなど、 地域ごとの特色に応じた話の変化が見られる。
また、当時の人々にとって、蒸気と汽笛を上げ、 厳密な分刻みの時間概念を持ち込む汽車は、 それ自体が近代化の象徴であり、 見方を変えれば一種の化け物のような異物であった。「偽汽車」 は、 こうした近代化への無意識下の忌避感や戸惑いを受容する過程に発 生した話なのではないだろうか。
結論として、「偽汽車」は単なる怪異譚ではなく、 近代的な時間感覚や文明開化の産物が人々の生活に浸透していく過 渡期にのみ成立し得た、極めて時代性の強い世間話であった。 1930年代以降、 複線化や電化という技術革新や鉄道の普及により、 異物としての鉄道という概念が失われるとともに、 この説話は急速に衰退したが、 それは日本人が近代的な日常を完全に受け入れた証左でもあったと 考えられる。
本研究は、明治から大正期にかけて日本各地で広く流布した、
まず、「偽汽車」の基本構造を分析すると、「
今回収集した全107事例の分布調査からは、
また、当時の人々にとって、蒸気と汽笛を上げ、
結論として、「偽汽車」は単なる怪異譚ではなく、
*これは2026年3月30日(月)にオンライン(Zoom)で開催された第165回の要旨です。
*上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
*次回6月27日(月)にオンライン(Zoom)開催の予定です。
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