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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル:
未確認動物の新聞報道史──雪男・ネッシーを中心に
発表者:
黄之瀬寛朗氏


 オカルト・超常現象の1ジャンルとして一定の注目が寄せられてきた対象の中に、いわゆる「未確認動物」(目撃談や写真等の情報はあるが正体が確認されていない動物)がある。数ある未確認動物の中でも、〝ヒマラヤの雪男(イエティ)〟と〝ネス湖のネッシー〟は殊に有名だが、加えて両者は戦後の新聞上で継続的に話題にされてきた稀有な例でもある。そこで本発表では、戦後から昭和終わりまでの朝日・毎日・読売各新聞の三大紙上で、雪男とネッシーがどのように報じられてきたのか、その内実と変遷を報告した。
 雪男については、50年代から60年代初頭にかけて非常に多く新聞記事として取り上げられているが、それ以降は報道数が激減。70年代に少し盛り返すものの、段々と報道は散発的になっていく。ネッシーについては、雪男とは逆に50年代から60年代までは散発的な報道に止まるが、70年代前後から記事の数が増え、その半ばにピークに達する。ただしそれ以降、報道の数は急速に落ち着いていく。
 そうした報道数の変化を確認した上で、発表では雪男とネッシーに関する特徴的な出来事を取り上げ、それが記事内で具体的にどう扱われていたかを論じた。それに加え、未確認動物を巡る新聞上の言説について、60年代までは未確認動物探索の科学的な価値を強調する論調が多く見られるが、70年代以降は科学的な考察が後退し、未確認動物を探すこと自体の「夢」や「ロマン」を強調する方向へと変化していくという、大まかな傾向の変遷が確認できることを指摘した。
 また未確認動物の情報が多様化していくにつれ、「雪男」や「ネッシー」という言葉がそれぞれ特徴の類似した未確認動物の通称として用いられる例が多くなり、そうして逆に〝ヒマラヤの雪男〟や〝ネス湖のネッシー〟自体の存在感が相対的に薄れていった可能性を論じた。
 質疑応答では、未確認動物言説をより多角的に検討するために、雑誌記事や児童向けオカルト書籍など資料の幅を広げていくことの必要性や、妖怪と未確認動物の連続性など、広範囲に議論が展開した。質疑応答で受けた指摘を、今後の課題として検討したい。(執筆:黄之瀬寛朗氏)


※これは2022年9月25日(日)にオンラインで開催された第125回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者兼執筆者の名を明記してください。
※次回は10月16日(日)15時00分オンライン開催です。

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タイトル:
疑似姉妹の心中と怪談
発表者:
嘉川馨


要旨:
 〈少女〉らによる疑似姉妹は、明治後期には既に少女雑誌に見られ、実際に女学校内で展開されていたと考えられる。疑似姉妹は、一部の女子教育者からは清らかな「友情」であると擁護されたが、新聞や総合雑誌などの一般メディアは勿論、学生向けの流行り言葉事典や、性欲研究書においても「同性愛」という病として扱われた。
 1911年の親不知海岸女学生心中以降、〈少女〉らの「同性愛」や疑似姉妹に対する社会的関心が高まっていった結果、〈少女〉らが共に自殺すれば、「「同性愛」が原因ではないか」という先入観をもって報道されるようになった。
 対して〈少女〉らの自殺についての記事が、〈少女〉のためのメディアである少女雑誌に掲載されることは、少なくとも大正期以降はほとんどなかったと考えられる。久米依子や佐藤(佐久間)りかによれば、少女雑誌が許容したのは清らかな「友情」としての疑似姉妹までであり、加熱した「同性愛」的な投書や投稿小説は、時代を下るにつれて排除されていったという。同様に、現実に起きた〈少女〉らの(「同性愛」的とレッテル貼りされた)自殺や心中に関する記事は、誌上から排除されていたのだろう。
 こうした〈少女〉と「同性愛」を巡る議論が乱立していた戦前の状況下においても、現実の〈少女〉の死が、女学校内で幽霊譚に発展していた可能性があることが、松谷みよ子による戦後の聞き書きから分かっている。注目すべきは、今回取り上げた実践高女の例では、元の事件(三原山女学生投身自殺)ではあくまで〈少女〉らの自殺だったにもかかわらず、「同性愛」が原因の心中であったと歪曲されている点である。この手つきからは、三原山女学生投身自殺――真許三枝子の自殺と松本貴代子の自殺――が、当時の新聞や婦人雑誌においては、まるで「同性愛」が原因であるかのように書き立てられたことを想起せずにはいられない。
 「同性愛」も〈少女〉の死も、あくまで〈少女〉向けメディアで排除されていたにすぎない。〈少女〉たちは何も少女雑誌だけを読んで生活していたわけではなく、新聞や総合雑誌などの一般メディアの影響も受けていた。また少女雑誌は「同性愛」を排除しようとしながら、疑似姉妹は「友情」として擁護せざるを得ないという矛盾を抱えていた。
今回の調査から、現実の〈少女〉の死が、女学校内では「同性愛」者の、つまりは疑似姉妹の幽霊譚として発展していたと推測できる。しかし現状、戦前に発行されたメディアからは、直接的な根拠となるような記事を発見できておらず、また今回取り上げることができた(戦後に採集された)当時の女学校の怪談・幽霊譚の数も極めて少ない。
 発表者はこれまで、主に戦前の少女雑誌を資料としていたため、今後は当時の新聞や婦人雑誌に加え、戦後に発行された資料でも、同窓会報や回顧録まで範囲に広げていくことで、さらに調査を深めていきたい。(文・嘉川馨氏)

※これは2022年6月26日(日)にオンラインで開催された第122回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者兼執筆者の名を明記してください。
※次回は7月30日(土)15時00分オンライン開催です。

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タイトル:
民俗事例ZOOM聞き書きの集い 序

発表者:
永島大輝氏


要旨:
 異類の会はオンラインになり毎回数十人の参加になって久しいのですが、『旅と伝説』の大阪民俗談話会みたいなことをしてみたかったのです。『旅と伝説』の通巻八十五号などに談話会の記録が載っているのですが、澤田四郎作が「下駄や草履は午後降ろさぬ」と言う俗信を紹介します。それを受けた岩倉市郎が類例として、アシナカに唾を吐くことを述べれば、それをうけて小谷方明が「蛇をさすと指がくさる」と言われているために「指した時には唾をはく」ということを語る。そんな感じの事をZOOMでやってみようという試みでした。
 結果、やってみたらできた。という感じです。
 事前にアンケートで質問はしておいたのですが、会話の中で記憶がよみがえる人が続出。
 私はこうしたときには自分の解釈などは言わないように努めているので、ひたすら聞いていたつもりですが、それでも一九時までかかり、いつもなら懇親会の時間まで使わせていただきました。
 これはどこかに報告せねばならない、と思っています。
 そして、膨大になるのでほんの少しではありますが、当日の事やアンケート結果を紹介しておきます。本当に一部です。
 アンケートの質問「①家族に聞いた、たぶん民俗学者が喜ぶ話、あるいは体験談」には、参加者の中根さんから「父が小学校(昭和35年前後)のころ、通っていた藤沢小学校(地元の藤沢町、押沢(おしざわ)町、松嶺(まつみね)町の3町の子供が通うが学校。廃校になり現在は通信制高校のルネサンス豊田高が入っている)で、押沢町の子どもから聞いた。藤沢町から押沢町へと抜ける「梅ケ田」(うめがた)と呼ばれる場所に、夕方に山から山へと飛び回る「アカチンボ」が出ると聞いた。これは藤沢小学校全体の噂になった。アカチンボがどんな姿をしているか、人前に現れてどんなことをするかは不明(少なくとも父は記憶していない)。父はその名前から、赤い男性器がロケットのように山の間を飛び回る姿を想像した。父は今も強烈な印象として、その名を覚えている。」というのを送ってくださり、グーグルマップを使い、「アカチンボの出現場所経緯度35.168411, 137.245801」を画面共有で見せてくださいました。
 「②子どものころにどんなもので脅かされましたか。」というアンケートにはたとえば、参加者の野中さんがLINEで友達にもたずねてくださり、「夜早く寝ないと鬼に連れてかれちゃう、おばけに連れてかれちゃう(静岡県静岡市30代女) 夜に口笛を吹くと蛇がくる おへそのゴマをとるとお腹が痛くなる 枕を踏んだり足蹴にすると悪い夢を見る(静岡県静岡市60代女)」など、とてもたくさんの事例(ここに載せたものはやはり一部です)を聞いてくださいました。そういえば、枕に関しては近年に似た話を学生に教えてもらったことがありました。
 また、参加者のsdmさんに「③学校の怪談・職場の怪談」として、「中学では、合唱コンクールでお母さんという曲の指揮をした生徒の母親が亡くなる事件が3年連続で起こり、それ以降お母さんは課題曲から外されたという噂が少し上の世代であったようです。」というものを教えていただきました。確認すると、兄弟姉妹で噂が伝承されているようでした。
「④おまじない・ジンクス、あるいは変わったことわざ、のようなものはなにかありましたか。」に「新しい靴を夜におろしてはいけない」というのが寄せられた。これなどは実は上記の大阪民俗談話会を個人的には思い出していました。
 大勢の参加、協力してくださった方のおかげです。ありがとうございました。
 今回は「中根さん」「sdmさん」「野中さん」のさらに一部の報告です。
 書ききれないくらいたくさんあるのと、これからどこかに資料として報告することを考え、ブログという媒体に載せるのは以上とします。
 繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。


※これは2022年3月13日(日)にオンラインで開催された第119回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
※次回は4月24日(日)15時00分オンライン開催です。

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タイトル:
旅するゴブリン

 ~1980年代ゲームブック、ファイティング・ファンタジーにおける
  妖精的ヒューマノイドの表現~

発表者:河津 創 氏

要旨:
1980年代の日本におけるゲームのメディア展開において、先駆的な役割の一部を担ったものとしてゲームブックがある。日本においてファイティング・ファンタジーシリーズは妖精物語である指輪物語の流れをくむファンタジー作品として1984年から1991年まで一連の作品が出版された。
本報告では、シリーズ作品に接した発表者が描き分けにくさを感じたヒューマノイド型敵対種族において、対象の外見的特徴がシリーズ作品内にて固定されるわけではなく、そのイメージが外部に開かれている事を指摘した。
1980年代に出版されタイタン世界を共有する社会思想社版の全23冊に、それに同じくタイタン世界を共有する『王子の対決(社会思想社)』と、『ソーサリー(東京創元社)』の四作品を加えた28作品のゲームブックの全テキストと挿絵を検証した。また、参照として、作品のタイタン世界を解説した『タイタンファイティングファンタジーの世界』『モンスター事典』を用いた。『タイタンファイティングファンタジーの世界』において主要な章立てがされている”悪の種族”オーク、ゴブリン、トロール、オーガー、穴小人、闇エルフと、”善の種族”エルフ、ドワーフを検証対象とした。イメージの対象は、作品ごとの演出とイラストレーターの画風によって様々に変化していた。
テキストにおいては対象が武装していること、またドワーフに髭があり小さいことが主たる特徴であった。また、テキストが部分的やあいまい、一度きりのものが多く、統一的に外見を特定することが難しいことが分かった。
挿絵においては、全対象武装していることが特徴として確認できたが”善の種族”では半数程度であった。また、テキストで言及されない、さらに一度しか言及されない特徴が確認できた、尖った耳や肌のテクスチャがこれに当たる。ドワーフが髭があり小さいことが確認できた。オーク、ゴブリン、トロール、闇エルフ、エルフに尖った耳が特徴的に確認できた。テキストにおいて”いぼだらけ”と表現されることの反映であると思われる肌のテクスチャ感がうかがえる表現がオーク、ゴブリン、トロールに特徴的に確認できた。オーク、ゴブリンにおいて牙が特徴的に確認できた。また作品によって大きく対象を特定する特徴が変わる様が確認できた。
発表では最後に日本のファイティング・ファンタジーシリーズの出版物においてタイタンを舞台としたシリーズ中では流動的であるのではと考えていることを説明した。流動的であることは仮説の段階であり今後の課題である。
質疑応答では、ゴブリンの肌が緑の表現に対して、1920年代の出版の色の教科書で推奨している補色とコントラストの表現があることを指摘したことに対して、妖精が好む色として緑色があることが言及された。また、雑誌の付録で示されてきた対象と比較できる可能性に話が及んだ。逆に、日本における妖怪が海外においてどのようにファンタジー世界で表現されているかという関心も持たれた。(文・河津創氏)


※次回は7月18日(日)15時Zoom開催です。

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「南方熊楠と鼠の文学史」

発表者:伊藤慎吾

要旨:
鼠は日本人が文字を獲得し、文学を創作するようになると、単に害獣としてだけでなく、鼠の生きる見えない世界を想像し、また古くから感じていた霊性も、民間信仰や仏教の展開に伴って文学作品に様々に描かれるようになった。
南方熊楠は、大正12年(1923)、雑誌『太陽』に掲載すべく「鼠に関する民俗と信念」を執筆した。結局、これは掲載中止となった。差し戻された当該原稿からは幾つかの論考がさらに派生的に作られた。
これらの論考に共通するのは、古今東西の文献を縦横に使いながら鼠の諸相を考察していることである。諸相というのは、具体的には鼠の嫁入り・鼠の報恩・鼠除けのまじない・異名「ヨメ」・子の日・正月の掃除・甲子祭の装束 ・鼠の妖怪・白鼠・鼠の神・大黒天・大黒(住僧の妻)・毘沙門天・作物被害・武具の鼠損などだ。
これらを取り上げる場合、熊楠には文学史的な関心が極めて低かった。古典文学に描かれた鼠の中で、熊楠の関心を惹いたのは、古代以来の白鼠の聖性、中世以来の大黒天との関わり、福神信仰との習合程度のことであった。詩歌の題や鉄鼠、月日の鼠、擬人化といった文学史的に重要な側面については無関心であったといえる。
文学資料を渉猟しながら、それらを和漢洋の古今の文献と同等に、質の違いに注意を払うことなく扱ったのであった。

※以上は2019年11月30日の発表要旨です。

なお、1月5日に南方熊楠顕彰館で「十二支考<鼠>談義」という講演会(というか、トーク・セッション)があります。
伊藤と一條宣好さんも話をします。
ぜひご参加ください。


次回の例会は1月11日(土)14時から武蔵大学で開催します。
発表者は一條宣好氏です。

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プロフィール
HN:
異類の会
年齢:
15
性別:
非公開
誕生日:
2009/09/15
自己紹介:
新宿ミュンヘンで誕生。

連絡先:
gijinka☆way.ocn.ne.jp
(☆を@にかえてください)
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