異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
タイトル:
近世期異類合戦物の見取り図
発表者:
伊藤慎吾
要旨:
色々なものが擬人化して、「餅と酒」「酒と煙草」「魚類と青物」「藥と病」など、二つの軍勢に分かれて合戦を繰り広げる物語を異類合戦物と呼ぶ。
中世後期に軍記物のコンセプトを受け継いで発展していき、近世期には物語文学・語り物文芸・草双紙・話芸・絵画・瓦版・落書など、様々なかたちで創作されていった。今回は「餅と酒」「酒と煙草」といったコンテンツがそれぞれどのように展開していったのかに注目しつつ、近世期の展開を提示していった。
外国の文化に比して、日本文化は歴史的にも、現代にも、人間以外のものをキャラクター化することに特色がある。必ずしも擬人化されるものではなく、妖怪や神の化身として描かれるものも少なくない。中世後期になると、そうした人間以外のキャラクター(異類)同士の合戦物語が開拓されていく。その背景として、『平家物語』を主とする軍記物語の趣向が異類の文芸に取り入れられたことが大きい。その代表的な作品として、『十二類絵巻』や『鴉鷺合戦物語』『精進魚類物語』がある。それらはその後の文芸に影響を与えることとなった。
こうして、近世に至ると、物語・語り物文芸における一つの潮流として展開し、物語・語り物文芸だけでなく、歌謡(語り歌)・謡曲(謡曲形式の戯文)・絵画(特に浮世絵)等の創作にも波及した。取り分け、赤本以来の草双紙でも瓦版物などと呼ばれる戯作(大寄席噺尻馬シリーズ等)では異類合戦物が好まれ、数々の新作が生まれた。
その一方で、出版を目的としない創作物の中にも異類合戦物は多様に展開し、近世期の地方文芸の一ジャンルとして見做すことができる。
また、版本を基にしながら、単に転写されるにとどまらず、大幅に加筆修正された異本も少なくない。更には、それらを台本として、祭礼における神楽(里神楽)として舞台で演じられることもあった。
近代以降は西洋のSFやファンタジー、近代兵器による戦争物に吸収されていくが、しかし娯楽読み物や寄席の色物芸、地方における語り物文芸(滑稽物やチャリ物)として昭和戦後期まで命脈を保つことになる。
以上が大きな見取り図である。
さて、近世期の異類合戦物は、題材として、鳥獣虫魚・草木は言うまでもなく、食物・薬・家財道具・衣服など様々なものが見られる。その中で、〈酒と茶〉〈餅と酒〉〈精進と魚介類〉は中世以来の対立軸であり、異類合戦物を代表するものといえる。近世期は、それらをコンセプトとして、各地の酒・茶・餅(餅菓子)・料理の名が明記されるようになる。ここに、近世期の新しい嗜好品として、煙草の銘も加わり、〈酒と煙草〉という対立軸も成立する。
その中で、『酒茶論』『酒餅論』『酒飯論』など、近世前期を代表し、戦前から知られた作品については、すでにいくつかの作品論が試みられている。しかしながら、それらは特定の作品を対象にしたものであり、全体を俯瞰すれば、まだ一部に過ぎない。およそ19世紀前半に餅酒合戦をテーマにした作品が数多くみられるようになる。
これに比して酒煙草合戦は作品的な広がりは見せず、18世紀後半に合戦物と論争物がそれぞれ1点程度しか見出されない。嗜好品の多様化と庶民への浸透の中で、創作のテーマとして定着しなかったのは、餅・菓子や酒とは異なる煙草の文化的な要因があるように思われる。
なお、『餅酒軍記』『餅酒大合戦』『魚貝英記餅酒合戦』といったいわゆる瓦版物は幾度も改版されていながら、諸本の関係性も解明されていないのが実情だ。今後の課題としたい。
※これは2022年4月24日(日) にオンラインで開催された第120回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、 必ず発表者名を明記してください。
※次回は5月29日(日)16時00分オンライン開催です。
※これは2022年4月24日(日)
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、
※次回は5月29日(日)16時00分オンライン開催です。
PR