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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル:『徒然草』第50段の解釈の変遷と絵画化について
    ー鬼の風聞と流行り病ー


発表者:池上保之氏

『徒然草』第50段は、応長(1311~1312)の頃、伊勢の国から女の鬼がやって来るという噂が京中に広がり、人々が翻弄されたという話である。人々はあちらこちらへと走り回ったが、結局、鬼を見たというものはいなかった。しまいには、闘乱騒ぎとなり、あきれるような有様であった。後にこの鬼のデマは、当時、流行った病の予兆だったという人もいたと言う。

 この風聞騒ぎについては、史料が存在しないため、これ以上のことは分からない。ただ、流行り病については『園太暦』延慶四年三月八日条などの記事から、実際にあったことが確認できる。この流行病のために延慶から応長へと改元されている。『徒然草』では「応長の比」とあるが、実際に出来事があったのは延慶のこととなる。「応長」という年号は1年足らずでまた改元されるため、不安定な時世であったことを想起させたと考えられる。

 本発表では、この章段について、近世から現代までの解釈を通覧した。また、絵画資料についても検討を行った。

 近世初期においては、林羅山『野槌』などで、為政者の行いを戒める章段だとされた。松永貞徳『なぐさみ草』では、聖代には麒麟鳳凰などが現れるが、このような奇怪な噂のたつ時は凶年であったとするなど、政治の乱れた時代であったとする。このような解釈が現れる理由として、儒学者などの共通認識があったと考えられる。奇怪な出来事がおこるのは、君に徳がないことのしるしであるとする考えは、『捜神記』などの漢籍にも見える考え方である。

 その後、少し時代が下ると、個人の気の迷いを戒める章段と捉えられるようになる。北村季吟『徒然草文段抄』では、虚説に惑わされないための戒めとして兼好が記した章段だとする。

 近代に入り、特に教訓的な意味合いは見なくなるが、生き生きとした描写が評価される。また、沼波瓊音『徒然草講和』では、ニコライ2世来日の際、西郷隆盛が同行するという風聞が日本中に起こったことを引き合いに出す。注釈とは言い難いが、非常に面白い評論である。

 現代では、『園太暦』などの資料を合わせて、解釈が行われる。安良岡康作『徒然草全注釈』では、「鬼」「田楽」「流行り病」を一体のもの捉えることができるとする。この点については岩崎雅彦「猿楽の説話と鬼」にも指摘がある。本発表では深く追究できなかったので、今後の課題としたい。

 絵画資料においては、『なぐさみ草』において、黒雲に載った鬼が空に構えており、下界では人々がと闘乱している、という象徴的な挿絵が描かれている。この図像は、多くの奈良絵本『徒然草』で描かれることになる。ただ、他の版本の挿絵には採用されることはなかった。この黒雲の描写は、『北野天神縁起絵巻』の鬼や、『伊勢物語』第6段(芥川)の描写などが参考にされているかもしれない。

 本発表は注釈書や絵画資料を通時的に辿ることが中心となった。質疑等で賜わったご意見をもとに、今後、内容の検討を深めていきたい。(文・池上保之氏)

※本発表は10月11日、Zoomによって開催されました。

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