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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル:
 「狐火」を通してみる「怪異」
発表者:西座理恵氏

要旨:
 発表者は修士課程で井上靖の文学について学び、その作品のなかで「狐火」を「雌雄の狐の戯れ」とする表現に出会った。日本の近代文学においては、ほかにも「狐火」に男女関係を投影させる作品がある。民俗の世界では「狐火」をこのように捉えることがあるのだろうかという疑問を持ち、口頭伝承における「狐火」の例話を100話近く収集し、近世の書物からも10例程度集め、その傾向を探った。
 口頭伝承では「狐火」ははじめから「怪異」として捉えられ、目撃した灯りが「狐火」かどうか、その様子などについて語られる。次に、近世の書承においては、その「怪異」を解き明かす形で説明される。例えば狐が自在に火を灯すことができる、牛馬の骨をくわえて火を灯す、もろこしの本では尾を打って火を出すというものである。書物で言及される「狐火」は、いくつかのパターンに分けられる。それが口頭伝承に反映されている可能性について考察した。
 さらに本発表では、「狐火」に関する先行研究について『草莽の語り』第4号(令和7・7、みちのく民芸企画)では触れていない論考を取り上げた。徳田和夫氏『百科繚乱の物語草子』(2008年11月、笠間書院)では『鳥獣人物戯画』甲巻を中心とした物語学の観点から、詞書のない絵巻における時間の問題を考察するにあたって、「狐火」が重要な役割を果たしていること、火を灯す狐の独特の姿形について学んだ。
 山崎みどり氏「怪しい火―狐火と蛍火―」(『朱』第六十一号、2018・3、伏見稲荷大社)では「狐」に結びつけられてきた怪しい火が中国では「蛍」であると考えられてきたことが述べられていた。中国では、陰暦6月の終わり頃に腐った草が蛍になると考えられていたため、山崎氏は「蛍」には美しいというイメージがなかったのであろうと分析する。久留島元氏「狐火伝承と俳諧」(『朱』第六十二号、2019・3、伏見稲荷大社)では鈴木元氏の論考に触れながら、中世以前の和歌では「狐火」を読むことはないが、連歌には用いられていることを指摘し、その背景に中世における狐火の理解には漢籍に基づく知識があると指摘されている。口頭伝承の「狐火」も民俗伝承の反映というよりは知識人たちによって支えられた類型的な表現の一つだったことが久留島氏の論考から理解できる。
 最後に、発表者は「狐火」について語る口頭伝承を「怪異・妖怪伝承データーベース」や伝承に関する書籍から100話近く集めて、口頭伝承にみられる「狐火」伝承の傾向について考察した。話をA、B、C、Dの4タイプに分けて分析したところ、口頭の「狐火」伝承の多くが生活における実体験と関わるものであり、書承に記されるフィクション性のある「狐火」伝承とは話の性質として隔たりのあることが見えてきた。
 民俗世界の「狐火」では、人が困難な状況に対して何らかの原因を探ろうとする心性があり、そこに本当に狐が介在しているかどうかが問題なのではなく、実生活において起こり得る状況をどのように捉えるかに「狐火」という怪異現象が取り入れられているようであった。
 『草莽の語り』4号では参考にできなかった中村とも子「日本昔話における狐のイメージ」(『昔話研究の諸相 小澤俊夫教授喜寿記念論文集』2007・7、昔話研究土曜会)には、「狐火」について次のような指摘がある。人が複数いても起こり、体験した人の年齢もまちまちであり、東京府中市の狐火体験では、競馬場が建設された1923(昭和8)年以降にも見られている。競馬場や電信柱といった今の私たちにも身近な物事が取り込まれた「今」に接近した情景であると述べられている。
 口頭伝承の「狐火」を分析すると、人々が生活環境のなかで不測の事態に直面し、恐怖心や警戒心を抱くときに、書承の「狐火」に見られる「狐」の怪異が用いられており、そのもとになっているのは書承の「狐火」ではないかと推測される。

〔気づいた点〕
 本発表では、近代文学において「狐火」に男女の恋愛を投影するのは、浄瑠璃、歌舞伎で有名な「本朝廿四考」の影響があるのではという指摘を頂いた。明治四十年生まれの井上靖は戯作にも興味を持ち、学生時代には戯曲も書いていたため、その可能性は高く、近代の文学者の「狐火」=「恋愛」と言うイメージに近世の芝居の影響があることも考慮すべきであろう。
 ほかにも「狐」に関連して、「狐の嫁入り」という言葉があるという指摘をいただいた。「狐」をめぐる俗信なども話題になった。例えば、「狐」といえば、「稲荷信仰」との関わりが深く、稲荷の初午にはおふろを焚かない、火を断つという俗信があることも教えて頂いた。稲荷には「火防」の信仰という一面がある。
 また、話という観点から、ドイツにも怪火伝承があり、ヨーロッパにも「狐」と火との関わりを示す話があるという。世界中で人に近い場所に生息する動物であるために、「狐」の伝承が文学に与える影響は多く、イギリスには狐になった女性の創作話もあるそうで、「狐火」にまつわるイメージがどこからきたかという点については、西洋文学も視野に入れると見えてくるものがあるかもしれない。日本では、幕末に冷泉為親の「婚怪草子絵巻」という作品があり、「狐」と関連の深い作品だということである。

今後の課題
 「狐火」に関しては、伝播の問題という課題があるというご指摘をいただいた。「狐火」が人口に膾炙するもとになったと推測される『和漢三才図会』は中国の書物『本草綱目』に由来する。この『本草綱目』が世間に知られるようになる契機として小野嵐山『本草綱目啓蒙』があるとご教授いただいた。
 また、書籍の成立年代とその内容が広く知られるようになる時期が異なることも考慮にいれなければならないという教授があった。例えば、「狐火」が登場する『今昔物語集』は平安時代末期、『宇治拾遺物語集』は鎌倉時代末期の成立であるが、その内容が広く知られるようになるのは、江戸時代前期の万治年間ということである。こうした書籍の内容、「狐」にまつわる俗信を誰が広げてゆくのかという問題は、山伏等の民間宗教者も視野に入れながら探っていく必要があるだろう。

*これは2026年2月28日(土)にオンライン(Zoom)で開催された第164回の要旨です。
*上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
*次回3月30日(月)にオンライン(Zoom)開催の予定です。

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