忍者ブログ
異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
1  2  3 
タイトル:
魚と野菜の大合戦
 ー『献立合戦笑草』を読むー

発表者:
伊藤 慎吾


要旨:
 寛文 8 年(1668)刊行『軍舞』所収の「うおがせん幷しやうじんもの」は『精進魚類物語』の影響下に成った小編である。これに類する伝本に、『魚類精進合戦』(写 1 冊)及び『魚類扣』(写 1 冊)がある。これらの関係性については旧稿「魚類扣考」(『日本文化研究(國學院大學栃木短期大学)』第5号)で論じた。本発表では、新たに見出した伝本2種を加え、近世における精進魚類物の展開を再検討した。
 その2種はともに上田市立図書館所蔵の写本で、1つは『献立合戦笑草』、もう1つは『魚類合戦』という。検証の結果、天明3年(1783)書写になる『献立合戦笑草』(あらすじは下記参照)は、安永3年(1774)書写の『魚類合戦』を改作したものと考えられる。その改作には信州地方の色合いが見られ、異本形成の実態が窺われる。
 元となった『魚類合戦』はすでに知られている『魚類精進合戦』に近い本文を持つもので、『魚類扣』や『軍舞』の「うおがせん并しやうじんもの」のような謡曲の符号はなく、読み物として流布した系統と思われる。


◆あらすじ◆
 天明元年8月15日の夜、鮭の将軍長尾(ながびれ)は精進方への恨みを晴らすべく、諸国の魚たちを集める。貝たちも与力として参戦することにする。これを聞いた精進方の大将畑山の薯蕷(ながいも)は諸国の野菜たちを招集する。かくて両陣から武将が出て相争い、煮物となったり、向付(むこうづけ)になったりしたのだった。
(文・伊藤慎吾)

※これは10月29日(日)
にオンラインで開催された第135回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。

拍手

PR

タイトル:
酒と煙草の合戦物語について
ー江戸時代の異類合戦物『酒煙草合戦』を読むー

発表者:
伊藤慎吾

要旨:
近世中期、各地の名物・物産品が流通するようになる中で、酒や煙草といった嗜好品もまた異類合戦物の中に擬人化キャラクターとして登場するようになった。『酒煙草合戦』はそうした文化的コンテクストを背景に成立した物語と評価できるだろう。
以下、要点をまとめる。

1, 『酒煙草合戦』は徳田本及びたばこと塩の博物館A本から成る甲類と、孤本である同B本の乙類の二つの系統に分けることができる。

2,甲類の二種の伝本の関係はまだ明確ではない。しかし、A本にあるべき本文が欠落していることや勢揃えのパートに伴う軍勢総数の記述が勢揃えから離れていることなどから、A本が大幅に加筆修正したのではないかと思われる。

3, 乙類は甲類から派生したものではなく、同じコンセプトで新たな創作を試みたものと思われる。

4,
甲類乙類ともに越後の在方の酒が擬人化し、また酒造地が登場することが多い点に特色の一つがある。また、煙草は東北、甲信越の産が中心であるが、やはり煙草の産地としては全国的に無名な越後の村名が見られる。一方、越後以外の酒・煙草は主に全国的に知られたもの(伊丹諸白や国分煙草等)、越後に通じる街道筋の産物(会津、米沢、信州産等)である。このことから、本物語は、越後国内の酒・煙草の流通に通じた人物の手になるのではないかと思われる。
B本の旧蔵者が新発田藩の豪農(城下町近郷)であったことを思うと、18世紀後半の、越後国内における物産品の生産や流通に関わった地主層に注目する必要があるかもしれない。
 
なお、徳田本は近刊の『國學院大學栃木短期大学紀要』に翻刻掲載の予定である。
また、会の後、新たな知見を幾つか得たので、それらを含めて今夏までに論文に仕上げたい。
(文・伊藤慎吾)


※これは2023年2月26日(日)にオンラインで開催された第130回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、
必ず発表者名を明記してください。

拍手


タイトル:謡曲仕立ての精進魚類合戦―『魚類扣』の紹介―
発表者:伊藤慎吾

要旨:
 異類合戦物の主要な対立軸に〈魚類×精進物〉がある。これは中世後期から行われてきたもので、『精進魚類物語』はその嚆矢として名高い。その後、近世から近代にかけて、このテーマは草双紙や講釈、歌謡、浮世絵などに展開していった。パフォーマンスとしては〈読み〉や〈語り〉にとどまるものと思われたが、最近、謡曲としての創作も行われていたことが新出の写本『魚類扣』から確認できた。

 本作品は謡曲形式ということもさることながら、登場キャラタクーには、ナマコの次郎やハララゴの太郎など、古く『精進魚類物語』の流れを汲むもの擬人名が見られる。そして最も近似する作品は「うおがせん幷しやうじんもの」である。本作品は寛文8年(1668)に刊行された『軍舞(いくさまい)』所収の一編で、本文が謡曲仕立てになっている点に大きな特色がある。『魚類扣』はストーリーの結末が異なり、本文や登場キャラクターにも異同が多いが、異本関係にあるということができる。『精進魚類物語』との距離は、両作品それぞれに相対的な親疎が認めれられることから、共通祖本から一方では絵入版本『うおがせん幷しやうじんもの』として刊行され、一方では『魚類扣』として書写されたのではないかと考えられる。


 なお、詳細は『日本文化研究(國學院大學栃木短期大学)』最新号(213月刊行予定)に掲載する予定である。

※本発表は2020年9月13日、Zoomによって開催されました。

拍手

異類同士の合戦をテーマにした物語を異類合戦物という。餅×酒、野菜×魚、獣同士、虫同士などがあり、もっと狭い範囲では淡水魚×海水魚、山の野菜×里の野菜、京の織物×関東の織物などの対立軸がある。こうした異類合戦の物語は中世後期から幕末明治期にかけて文芸世界でさまざまに展開していった。その流れの中で以下の3つの問題を取り上げた。
(1)事実譚としての異類合戦物
異類の合戦は、古来、話題性のある出来事であった。ただし古代から中世前期にかけては、まだ珍事として説話化されるに過ぎなかった。それらの珍事を文芸として昇華することは、『平家物語』などの軍記物語のパロディという趣向が生み出される中世後期を俟たねばならなかったと思われる。そして近世は戯作、戯文が広く開拓されていき、『宮川舎漫筆』に引用されているような戯文も容易に創作されるようになった。
(2)対人型―退治できない異類との戦い
異類合戦物は異類同士を前提とするが、中には早物語「清盛蜂合戦」のように人間と蜂の戦いを描いたものがある。一般に人間と異類との戦いというのは、人間が人間を襲う異類を〈退治〉するという異類退治物として捉えられる。ところが「清盛蜂合戦」のような物語は〈退治〉に主眼が置かれているのではなく、〈合戦〉が主であって、退治できたかどうかといった結末は重要ではない。このように異類と戦う人間が英雄でもなく、異類側が退治されるのでもないということであり、また合戦自体をテーマとしていることである。こうした人間対異類の合戦は、基本的に異類同士の〈異類合戦物〉に類するが、一方が人間というタイプであることから、これらの物語を便宜〈異類合戦物・対人型〉と呼びたい。
(3)擬人名と戯人名
異類合戦物においては、少なくとも主要キャラクターには固有名詞が与えられる。魚のブリならば「鰤丹後守」(『魚太平記』)、虫のホタルならば「蛍左衛門尉尻照」(『諸虫太平記』)などである。これを擬人名という。ところが人間世界で人間に名付ける名前にこうした擬人名に類する名前を付ける作品が散見される。たとえば「小倉又兵衛忠酔」(『水鳥記』)は酒の擬人名ではなく、ただの酒好きな人の名前である。こうした非現実的な物語』と同様に擬人名のように見える。しかし、物語世界は擬人化世界といいがたい。かといって、通り名や源氏名と理。こうした擬人化キャラクターのネーミングに類する、しかしながら人間に与えられた名前を、従来から使われてきている〈戯年号〉(←偽年号)に準じて〈戯人名〉と呼んでおきたい。(文・伊藤慎吾)

以上、異類の会第54回例会(2015年6月13日・於大東文化大学)発表の要旨です。

拍手

本発表では異類合戦物が近代以降どのように展開していったのかということを、各時期の特徴に注目しつつ捉えようと試みた。
まず明治期はその初期において江戸時代の文芸ジャンルが生き残っていたが、異類合戦物は新たな題材・表現を用いながらもその枠内で新作が作られていた。草双紙『雑具魚鳥山海餅酒読切大合戦』(明治10年刊)、落語「遣繰軍記」(明治32年口演)、一万斎芳政画「道戯大合戦」をはじめ、ジャンルは多岐に亘る。また口承文芸の早物語の受容も看過できないだろう。
その後、江戸文化を否定する傾向に伴い、各ジャンルの異類合戦物も衰退する。
また児童文学が発達する中、昔話や西洋の翻案の寓話、創作などの子ども絵本が多く作られるようになる。異類物自体はこのように新たに開拓されていくが、しかし合戦をテーマとした作品は求められなくなる。
児童向け読み物も発達するが、そこでは博物的、科学的関心を深めるという啓蒙志向が顕著に出て来るようになった点に新たな異類物の意義があるが、やはり合戦はテーマにされなかった。
このように異類合戦物は明治期に入り、衰退の一途をたどるが、SF文芸の中に異類の要素は受け継がれることになった。これは直接影響関係があるということではなく、世界観やキャラクターの設定に類似点があるという程度だったと思われる。
その一方で、漫画やアニメーションといった子ども向けの新たなメディアの誕生は、異類合戦物を再起させることになった。
アニメでいえば、猿軍vs白熊軍の戦いを描いた「お猿の三吉 突撃隊」(昭和9年)や日本の昔話のキャラクターたちvs侵攻するミッキーマウスたちを描いた「オモチャ箱 第三話 絵本」(昭和11年)など、近代以前の異類合戦物同様に単純なストーリーや世界の設定によるものが典型的な作例である。
戦後はテレビや映画というメディアの普及、漫画やゲームの増加といった大衆娯楽産業の拡大の中、異類合戦物は生み出されていった。もちろん、双六のようなボードゲームでは〈合戦〉に類する〈競争〉が戦前から扱われてきて今日に続く(「むしのうんどうかい」など)。
現代は擬人物が特殊に流行しており、従来の傾向と異なる娯楽産業と密接に関わりながら作品が生み出されている。
すなわち従来は異類は外見も異類(蜂なら蜂の姿のまま、もしくはそれに近い形態)であった。今日も児童文化の枠内では主にその形態を踏襲するが、サブカルチャーの領域では美少女化・イケメン化する傾向が強い。
そして合戦物は戦略SLGとして発達している。
その一方でトレーディングカードゲーム、さらにカードバトルRPGの流行に伴い、多種多様な異類(主にモンスター)の合戦物が生み出されている。

以上のように、近代以降の異類合戦物は、児童文化から派生した娯楽文化において数々の作品を生み出していった。
その一方で、合戦というテーマはゲームに適したものであることから、コンピュータゲームやカードゲームの発達により、多種多様な世界観・キャラクターが現れるようになった。(文・発表者 伊藤慎吾)

以上、異類の会第52回例会(2015年4月4日・於大東文化大学)発表の要旨です。

拍手

カレンダー
02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新コメント
[10/24 浅井悠太]
[10/24 木下 誠]
[09/26 永島大輝]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
異類の会
年齢:
14
性別:
非公開
誕生日:
2009/09/15
自己紹介:
新宿ミュンヘンで誕生。

連絡先:
gijinka☆way.ocn.ne.jp
(☆を@にかえてください)
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
異類の会 Produced by 異類の会  AD :忍者ブログ [PR]

SimpleSquare 和心 ver.2 Edit by : 飛雄