異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
近世後期の「件(くだん)」に関する文献資料六点と、『ホキ抄』の「件(ケン)」説話との比較を行った。「くだん」と「ケン」の関係性は、常光徹(『うわさと俗信』高知新聞社 1997年)で指摘されていたが、これまで検証が行われたことはなかった。
江戸時代後期の資料における「くだん」には、「山中で遭遇する」、「人語を解し、病気の流行を予言する」、「姿を図写した者は病難から逃れられる」、「記事には「くだん」の絵が添えられている」という共通点が見受けられる。しかし、それ以外の記述は、資料によって差があり、「件(くだん)」という名称や、姿に関する記述はかならずしも一致しない。
『ホキ抄』の「ケン」は、龍宮から現れた人面牛身の人語を解す異類として記されている。釈尊に、その身が狙われている事を告げ、釈尊は「ケン」の進言通り、「ケン」の皮を張った太鼓を叩くことで難から逃れた。その後、釈尊は「ケン」を第一の弟子として認めた。また、漢字の「件」が、人偏に牛をつくるのは、「ケン」の姿によるものであるという。
江戸後期の資料に見える「くだん」と、『ホキ抄』の「ケン」には、いくつか共通する特徴が見受けられる。「名が「件」である」、「人面牛身」、「人語を解し、危機を予言する」、「漢字の「件」は、「ケン」の姿による」点である。しかし、「名が「件」である」、「人面牛身」、「漢字の「件」は、「ケン」の姿による」という点は、江戸後期「くだん」資料の一部のみに見える特徴である。「山中で遭遇する」、「人語を解し、病気の流行を予言する」、「姿を図写した者は病難から逃れられる」という異類の伝承に、「ケン」説話の要素が混ざり、「くだん」と呼ばれるようになったのではないだろうか。
(文・発表者 中野瑛介氏)
以上、異類の会第45回例会(2014年9月26日・於青山学院大学)発表の要旨です。
江戸時代後期の資料における「くだん」には、「山中で遭遇する」、「人語を解し、病気の流行を予言する」、「姿を図写した者は病難から逃れられる」、「記事には「くだん」の絵が添えられている」という共通点が見受けられる。しかし、それ以外の記述は、資料によって差があり、「件(くだん)」という名称や、姿に関する記述はかならずしも一致しない。
『ホキ抄』の「ケン」は、龍宮から現れた人面牛身の人語を解す異類として記されている。釈尊に、その身が狙われている事を告げ、釈尊は「ケン」の進言通り、「ケン」の皮を張った太鼓を叩くことで難から逃れた。その後、釈尊は「ケン」を第一の弟子として認めた。また、漢字の「件」が、人偏に牛をつくるのは、「ケン」の姿によるものであるという。
江戸後期の資料に見える「くだん」と、『ホキ抄』の「ケン」には、いくつか共通する特徴が見受けられる。「名が「件」である」、「人面牛身」、「人語を解し、危機を予言する」、「漢字の「件」は、「ケン」の姿による」点である。しかし、「名が「件」である」、「人面牛身」、「漢字の「件」は、「ケン」の姿による」という点は、江戸後期「くだん」資料の一部のみに見える特徴である。「山中で遭遇する」、「人語を解し、病気の流行を予言する」、「姿を図写した者は病難から逃れられる」という異類の伝承に、「ケン」説話の要素が混ざり、「くだん」と呼ばれるようになったのではないだろうか。
(文・発表者 中野瑛介氏)
以上、異類の会第45回例会(2014年9月26日・於青山学院大学)発表の要旨です。
日時 9月26日(金)19:00-21:00
会場 青山学院大学 総研ビル(14号館)五階 14501教室
中野瑛介氏
「予言獣「件(くだん)」と『ホキ抄』所収の「件(ケン)」説話」
要旨:
「件(くだん)」とは、豊作や疫病などの予言を行う、人面牛身の異類である。近世のかわら版や、各地の伝承の中に見受けられ、文学や民俗学などの領域で研究が行われてきた。
これまでの研究において、「件(くだん)」を伝える資料として挙げられてきたのは、江戸時代後期以降のもののみだったが、発表者は、室町時代末から江戸時代初期頃に成立したとされる陰陽道書『ホキ抄』巻二「○十二支之事」の記事中に、「件(くだん)」とよく似た特徴を持つ、「件(ケン)」にまつわる記述を発見した(『ホキ抄』の「ホキ」は本来漢字だが、変換されない可能性が高いため、カタカナで表記した)。
今回の発表では、『ホキ抄』の「件(ケン)」説話を紹介し、「件(くだん)」伝承との関係性を考察する。
会場 青山学院大学 総研ビル(14号館)五階 14501教室
中野瑛介氏
「予言獣「件(くだん)」と『ホキ抄』所収の「件(ケン)」説話」
要旨:
「件(くだん)」とは、豊作や疫病などの予言を行う、人面牛身の異類である。近世のかわら版や、各地の伝承の中に見受けられ、文学や民俗学などの領域で研究が行われてきた。
これまでの研究において、「件(くだん)」を伝える資料として挙げられてきたのは、江戸時代後期以降のもののみだったが、発表者は、室町時代末から江戸時代初期頃に成立したとされる陰陽道書『ホキ抄』巻二「○十二支之事」の記事中に、「件(くだん)」とよく似た特徴を持つ、「件(ケン)」にまつわる記述を発見した(『ホキ抄』の「ホキ」は本来漢字だが、変換されない可能性が高いため、カタカナで表記した)。
今回の発表では、『ホキ抄』の「件(ケン)」説話を紹介し、「件(くだん)」伝承との関係性を考察する。
お伽草子作品『花鳥風月の物語』は、月と花の戦を描いた異類合戦物である。本発表では、花方の勢揃え場面に見られる「花尽くし」を中心に取り上げ、季語に注目しつつ物語の構造を解析した。
物語は、秋を象徴する月と、春を象徴する花との座敷論という「春秋優劣論」に始まる。着到付の場面では、まず、到着順に春の花々が挙げられ、次に諸国の軍勢として夏・秋の植物が紹介される。ここから、花の中でも春の花々が主力であることが分かる。一方、月方へは月や星が馳せ参じ、天の川原に陣を取る。合戦の場面では、「秋の野の郎等露草(別名:月草)」対「仲秋の名月」という構図となり、深手を負った満月は片破月となる。この場面では「秋対秋」あるいは「月対月」となっている。互いに犠牲を出し、落首などの遣り取りがなされるが、最後は嵐という「秋」の援軍によって月方の勝利が決まった。花は散り行き、月も天に帰り天下太平となる。伝統的な春秋優劣論の系列と同じく、秋の勝利による幕引きである。
本文にはおよそ三十三種の植物名が織り込まれている。今回は『枕草子』『源氏物語』『徒然草』における「花尽くし」と比較し、また『花情物語』『浄瑠璃物語』『胡蝶物語』などお伽草子作品との共通点も指摘した。また、少なくとも五箇所以上に『和漢朗詠集』の影響が見られる。先行研究では、『和漢朗詠集』をもじった落首に「落花不語」の語がないことから「直接参看したものではない」との指摘があるが、発表者はしほりんたう討死の場面に「落花不語」が見えることから意図的に改変した可能性を述べた。
本発表では、登場人物(植物や自然現象)の季語から作品を読み解いた。その結果、『花鳥風月の物語』は短編の物語ながら「物尽くし」の手法によって、場面ごとに対比効果と抑揚を生み出していることが分かった。(文・発表者 北林茉莉代氏)
以上、異類の会第44回例会(2014年4月25日・於青山学院大学)発表の要旨です。
物語は、秋を象徴する月と、春を象徴する花との座敷論という「春秋優劣論」に始まる。着到付の場面では、まず、到着順に春の花々が挙げられ、次に諸国の軍勢として夏・秋の植物が紹介される。ここから、花の中でも春の花々が主力であることが分かる。一方、月方へは月や星が馳せ参じ、天の川原に陣を取る。合戦の場面では、「秋の野の郎等露草(別名:月草)」対「仲秋の名月」という構図となり、深手を負った満月は片破月となる。この場面では「秋対秋」あるいは「月対月」となっている。互いに犠牲を出し、落首などの遣り取りがなされるが、最後は嵐という「秋」の援軍によって月方の勝利が決まった。花は散り行き、月も天に帰り天下太平となる。伝統的な春秋優劣論の系列と同じく、秋の勝利による幕引きである。
本文にはおよそ三十三種の植物名が織り込まれている。今回は『枕草子』『源氏物語』『徒然草』における「花尽くし」と比較し、また『花情物語』『浄瑠璃物語』『胡蝶物語』などお伽草子作品との共通点も指摘した。また、少なくとも五箇所以上に『和漢朗詠集』の影響が見られる。先行研究では、『和漢朗詠集』をもじった落首に「落花不語」の語がないことから「直接参看したものではない」との指摘があるが、発表者はしほりんたう討死の場面に「落花不語」が見えることから意図的に改変した可能性を述べた。
本発表では、登場人物(植物や自然現象)の季語から作品を読み解いた。その結果、『花鳥風月の物語』は短編の物語ながら「物尽くし」の手法によって、場面ごとに対比効果と抑揚を生み出していることが分かった。(文・発表者 北林茉莉代氏)
以上、異類の会第44回例会(2014年4月25日・於青山学院大学)発表の要旨です。