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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル(発表者):
予言獣3題―予言獣の誤転写・アマビエの変容・件(クダン)の位置―
 1. 誤転写と予言獣
  ー「アマビエはアマビコの誤記」説の再考からー
 (長野栄俊氏)
 2. 予言をしなくなった予言獣
  誰がいつアマビエを変えたのか
  (峰守ひろかず氏)
 3. 予言獣としての件(クダン)の位置
  (笹方政紀氏)

要旨

誤転写と予言獣-「アマビエはアマビコの誤記」説の再考から-

長野栄俊氏


 『予言獣大図鑑』の資料解説で用いたキーワード「誤転写」について、具体的事例を示しながら検討した。
 前半では、「予言獣の本質はかわら版」であるとの見通しを示し、かわら版の帯びる特質を列挙した。その特質とは、1)事実報道以外の虚報や娯楽・パロディも多く含まれていたこと、2)珍談奇聞は当該地方で記録・伝承されず、都市で捏造されたものであったこと、3)「役人」云々の文言や公文書形式を模した形式は虚報に信憑性を付与するためのものだったこと、4)非合法出版ゆえ模倣版が横行したこと、5)転写されて流通し、地方へも伝播したこと、などである。
 これをふまえると、「アマビコ」から「アマビエ」への「誤記」は、肥後の役人から江戸に報告され、かわら版になる過程で生じたものとは考えにくく、先行する「あま彦(天ひこ)」のかわら版(未発見)が転写されたり、模倣版が作られたりする過程で生じたものと推定できることを指摘した。
 後半では、予言獣資料に見られる「誤転写=誤読+誤写」のメカニズムが、現代人が接する活字やフォントでは生じえない、くずし字に特有の事情によって生じたものであることを7つの事例を挙げて論じた。なかでも、くずし方が類似する字形を誤読して写したパターン(「神社姫」→「神の姫」、「くだん」→「くたべ」→「どだく」)や連綿体の文字の切れ目を読誤して写したパターン(「尼彦」→「左立領」)をくずし字特有の事例として詳しく取り上げた。
 最後に、「かいし人」や「どだく」など非合理な名称であっても、妖怪名称(怪異名称)ゆえに受け入れてしまうバイアスがかかり、誤転写を促進させた可能性があった点についても言及した。


 質疑応答の時間では、予言獣の要件としての「人面」の問題や、予言をしない瑞獣かわら版を予言獣に含めるかどうかという定義の問題、予言獣かわら版の営利ではない無償配布の可能性の有無などについて質問があった。(文・長野栄俊氏)


 


予言をしなくなった予言獣 誰がいつアマビエを変えたのか


峰守ひろかず氏


 2023年12月に刊行された『予言獣大図鑑』の拙稿「予言から疫病退散へ」では、2020年に端を発したコロナ禍を経て、アマビエの通俗的な性格(属性)が、「予言する妖怪『予言獣』の一種」から「伝統的な疫病退散祈願の対象」へと変質したことを指摘した。今回は、この変質の時期と過程について、主に新聞報道を参考に報告を行った。
 変質の第一波は、2020年2月以降にインターネット上でアマビエが流行する中で「疫病を退散させる妖怪」として扱われるようになったこと、それを受けて厚生労働省が4月上旬(この日付については後述する)に「疫病から人々を守るとされる妖怪」として感染拡大防止啓発アイコンに採用したことによって起こったものと考えられる。
 一方、新聞報道では、アマビエに言及した記事は3月から見られるが、この時期から4月頃にかけての記事は、アマビエが疫病退散祈願に使われていることには触れつつも、あくまで予言するもの(予言獣)として紹介していた。もっとも、この時期には、本文ではアマビエを予言獣として扱いつつも、見出しでは疫病退散属性を強調している記事も散見できる。この流れを受けて、4月初旬〜5月上旬頃になると、記事本文においても「アマビエは伝統的な疫病退散祈願のシンボル」という設定が明記され、「江戸時代にはアマビエが疫病が封じる妖怪として広く信じられていた」という「史実」が存在したことになってくる。
 さらに5月中旬以降は「アマビエ=伝統的な疫病退散の妖怪」という図式は周知の事実として通用するようになる。ネット上でのブームを経て既に通俗的妖怪としてのアマビエの性格は「予言獣の一種」から「伝統的な疫病退散のシンボル」へと変わっていたが、それが社会に定着したのが、この時期(5月中旬)と言える。
 2020年のアマビエの変質は、まず「新型コロナ収束」という社会的な需要(願望)に応じて偏った認識が広まり、その上で、報道機関が社会に広がっていたイメージに合わせた表現を多用したことが念押しとなって「伝統的な疫病退散の妖怪」という性格の固定化が生じたものと考えられる。


 なお、発表後の質疑応答では、厚労省がアマビエをアイコンに採用した日付について、発表者が「2020年4月9日」としていることに対し、「8日以前ではなかったか」との指摘を受けた。確認を行ったところ、厚生労働省のWEBサイトにアマビエを採用したロゴが掲載されたのは同年同月7日の深夜で、厚生労働省の公式Twitter(現X)アカウントによる本件の周知が行われたのが9日であった。正確には7日時点で採用されていたことになるため、機会があれば訂正を行いたい。
 また、アマビエの変質や社会への定着過程を見るためには新聞報道だけではなくワイドショーやニュース等の映像媒体にも気を配るべきとの指摘もあった。活字情報以外の分野の掘り下げ不足は自覚しており、今後の課題と受け止めている。
 質疑応答の中では、変質後のアマビエ像を示す資料として取り上げた児童書の監修者から、同資料の編纂中にアマビエの記述が疫病退散妖怪へと傾いていった過程を具体的に聞くこともできた。このあたりの情報も今後生かしていくこととしたい。(文・峰守ひろかず氏)


 



予言獣としての件(クダン)の位置


笹方政紀氏


  現在把握されている件(クダン)(以下「クダン」という。)のかわら版は、『予言獣大図鑑』にも掲載した『大豊作を志ら須件と云獣なり』と『件獸之寫真』の2枚があり、その内予言をするものは後者の1枚だけである。それにも関わらず、クダンは予言獣の代表的な存在のように言われることも多い。本発表では、その経緯を追いつつクダンの予言獣としての位置を確認した。
 少なくとも18世紀において、クダンは正義や正しいものの象徴であり、予言をしていなかった。文政2(1819)年、予言獣の古い事例である神社姫や姫魚の流行した年、予言をするクダンの記録が残っているが、予言獣としてかわら版(読売、摺物とも)に登用された事例は幕末まで下る。
 クダンと他の予言獣との大きな違いの一つとして、クダンは既存の妖怪(ここでは便宜上、妖怪とする。)を採用し予言獣構文を持つかわら版に登用したものであるが、アマビコやクタベなど他の予言獣は予言獣オリジナルのものであり予言獣のかわら版やその転写物などの中でしか存在が認められない半人半漁の人魚もクダンと同様に既存の妖怪を登用したものと言えるが、その事例は限られている。また、神社姫や姫魚は人魚の類と言えるが、独自のオリジナルの名称を有している。
 近代になると、かわら版というメディアはその立場を徐々に新聞にとって代わられていく。それにつれ、かわら版やその転写物の中にだけ存在していた予言獣は徐々に衰退していく。片や、クダンはかわら版等の世界だけでなく、畸形の仔牛の誕生譚を伴い現実に起こったとされる噂話の中で予言をし、生き続けていく。その事例は近世のかわら版と違い多数認められる。飼牛のいる農村部から食料としての牛が飼育される都市部へも広がり、太平洋戦争時などには戦時流言としてクダンは語られた。
 平成になり、湯本豪一氏が「予言獣」というカテゴリを推奨する時には、他の予言獣は衰退し消える一方で、クダンはその事例、資料を増やすことにより、予言獣の代表として捉えられた。このようにクダンは予言獣として特異な位置に存在するものであるといえる。(文・笹方政紀氏)


※これは2月17日(土)にオンラインで開催された第141回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、
必ず発表者名を明記してください。


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