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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル:
 福井県福井市一乗谷「安波賀春日社縁起絵」と小狐丸
 ーまたまた狐に化かされてー

発表者:
 林京子

要旨:


 小鍛冶伝承とは、「刀工の京の三条に住む小鍛冶宗近は奉納する刀剣の制作を指名されたが適任の相槌役がいないことを嘆き、氏神の稲荷明神に祈請すると、神使の狐が童男姿で相槌に現れ、刀剣が完成する。出来た神剣を宗近は小狐丸と名付けた」というもので、モチーフは①国家鎮護の神社へ刀剣の奉納②刀鍛冶三条宗近③稲荷神④狐である。


筆者は、中世には生身の地蔵出現の霊地であり、現代は著名な特撮ロケ地である栃木県栃木市岩船山と山上の高勝寺の宗教文化史研究を行っている。岩船山上には地蔵の他に孫太郎尊という狐に乗ったカラス天狗も祀られているこの孫太郎天狗を追って佐野市の孫太郎稲荷に行き、佐野の孫太郎稲荷から奈良の薬師寺の孫太郎稲荷へ連れていかれ、薬師寺の孫太郎稲荷は姫路から来たと言われて姫路に連れていかれた。姫路では「小鍛冶」が姫路の在地伝説化し、孫太郎は相槌を打った狐の名前になっていた。佐野市も姫路でも春日神社との関わりがあった。


福井市の「一乗谷朝倉氏遺跡」は、朝倉義景の自刃で壊滅した朝倉家の遺跡。「一乗谷朝倉氏遺跡博物館」(以下「博物館」)には三条宗近と相槌を打つ童男、狐が描かれた「安波賀春日神社縁起絵」(以下「縁起絵」)が複製展示されている。安波賀春日神社は11世紀藤原氏の創建で、戦国期には朝倉家の尊崇を受け、神主の吉田定澄・定富親子は吉田兼右と親交が深かった。福井藩主の松平吉品は吉田家門弟の吉田日向守を見出し、元禄十年に吉田日向守を神主として安波賀春日社を再建した。その時「安波賀春日之縁起」と「縁起絵」がセットで整備された。その時縁起本文には記述のない宇治川の合戦で佐々木高綱が着用した兜と具足三条小かぢ宗匠作刀の小狐丸の影(奉納しなかった方の刀)も神宝として神社に持ち込まれた。この神社が再興されたのは、あまりにも不幸な異変が続く福井藩主家が吉田神道の力を借りて呪いの主とされる朝倉義景を慰霊し藩主家の子孫長久を願うためだった。悪霊と化した朝倉義景を神として祀り鎮めるには「神つかい」吉田家に依頼するのが最も良い解決法と目され、安波賀社は従来から吉田家と深いつながりを持っていた。安波賀春日社が再興されると、その境内には朝倉氏を慰霊する滝殿権現が建立された。このことは藩主家の秘密であった。


幕末の福井藩主である松平慶永(号春嶽)は晩年『眞雪草紙』という回想録を残し、小狐丸の影のことや瀧殿社のことを記録した。松平春嶽は将軍徳川家斉の甥で将軍の血縁者だった。春嶽が瀧殿権現の詳しい記述を残したのも、危機的状況下の吉品と近世の終わりを体験した自らが重なるように思えた部分があったのではないか。一方「小狐丸の影」は、「享保名物帖」を作成した将軍徳川吉宗の耳にも入り、問題の刀剣は江戸城に上がったこともあった。近代に入って、松平春嶽は九条道孝が「小狐丸の影」を欲しがっているのを知り、結局春嶽が仲介して「小狐丸の影」は九条家に売却された。その後のこの刀剣の行方は不明である。また春嶽は福井県の威信の元勲なので、彼の回想録は彼の意図とは別に全て公刊された。このことで神秘だった瀧殿社のいわれも公開されてしまい、現在の神社の由緒にリターンされていることは歴史の皮肉である。


小鍛冶伝承は彼の居住地とされる粟田口周辺や、彼を助けたとされる伏見稲荷周辺の多数の寺社の縁起に取り込まれている。さらに遠方まで伝承が伝播した背景には「漂泊する鍛冶屋の伝承がみちのくまで北上していったこと」「稲荷神が鍛冶神として鍛冶の人々の信仰を集めて」おり「漂泊する琵琶法師によって語られる小狐説話と、同じように漂泊する鍛冶の人々の三条宗近の伝承が各地で交流することは十分考えられる」などの指摘がある。「博物館」学芸員宮永氏は、由緒の物語の創出に長けていた吉田家の関与、熊野御師などの関与などにより、広範囲に広がり受容されていた三条宗近と小狐丸の物語が一乗谷に伝来したのではないかと推測されている。寺社が「小鍛冶」を縁起に取り込んでいくのは、稲荷が鍛冶職の神であることや火除けの利益を唱導して参詣者を誘引する為であろう。また鍛冶職の人々とこの物語は現在も強く結びついている。現在も三条宗近の名刀三日月宗近の影や彼の物語は作成され続けている


中世の日光は吒枳尼天信仰が盛んで近世には東照三所権現の一つである摩多羅神と習合した。摩多羅神が異端視されるようになっていくと、吒枳尼天は飯綱権現や稲荷と理解されていった。宮家準氏や山本ひろ子氏は「天狗と吒枳尼天と稲荷と摩多羅神は中世以来互換する」と指摘し、その実態は捉えがたい。


安波賀社の社宝である「小狐丸(の影)」が重要であったため、縁起絵に書き込まれている三匹の狐に関心が向けられることはなく狐の名前は特に伝承されていない。唯一の「孫太郎」の記述は安波賀社の石の鳥居の寄進が本多孫太郎による、というものである。筆者の先祖は本多孫太郎長員に仕官した。筆者の実家は六角氏被官でその後朝倉氏に仕え、近世は本多家に仕えた戦国武将(下層クラス)のイエである。自分たちが朝倉旧臣で本多家旧臣であるという「物語」が実家の人々を支えてきた。発表者が様々な困難にめげず岩船山の宗教文化史研究を続けているのも「岩船山は時折仮面ライダーと共振する」という自分だけの物に支えられている。畏るべし「物語の力」!


一乗谷安波賀春日社の「小鍛冶」伝承は、寺社の縁起に取り込まれた「小鍛冶物」とは異なり、神社再興の由緒の創出として導入されたもの。当初は義景の御霊を慰霊祭祀によって福井藩の守護神に変換するための神社再興であったが、その過程で広く人々に知られた物語として「小鍛冶」伝承が縁起に入り込んだ。伝承は独自に成長し、近世の終焉を体験した藩主によって詳細な回想が記録された。藤原家の祖鎌足と狐・鎌・吒枳尼天という物語が、幸若舞などを通し福井でも受容されていたので「小鍛冶」伝承も問題なく受容されたのではないか。


今回の発表で福井県立文書館の先生のコメントを頂けたことは本当に幸運だった。今後も現地の研究機関と連携できないか探っていきたい。
(文・林京子氏)

*これは9月22日(日)にオンライン(Zoom)で開催された第147回の要旨です。
*上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
*次回は10月20日(日)15時にオンライン(Zoom)で開催予定です。





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鷹の家とされる西園寺家については、鎌倉~南北朝期以降の様相について明らかにされてきたが、芸道伝授が多く行われる中世後期についてはあまり取り上げられていなかった。本発表では、立命館大学図書館西園寺文庫に蔵される鷹書、特に『尋申条々』を手がかりとして、西園寺家における鷹の伝授について検討した。
本書は天文三年(一五三四)仮名暦の裁断した下半の紙背に、礼法記載を主として記される。同時期に行われた小笠原の弓馬故実の伝書などとの比較をふまえて、本書が大内氏被官弘中興勝よりの質問に対する返答を作成する際の草稿あるいは、手控えとして作成された書と位置付けた。また、本書には西園寺実宣による同時期の奥書を持つ『鷹百首』(「たかやまに」類)と連関する記載も見られ、西園寺家が『鷹百首』と合わせて、書面によって鷹の伝授を行っていたと指摘した。(文・発表者大坪舞氏)

以上、異類の会第40回例会(8月24日・国学院大学)発表の要旨です。

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 『おおかみこどもの雨と雪』(以下「おおかみこども」)は大学生の花と「彼」と呼ばれるニホンオオカミの血を引く男が出会い、二人の間に雪と雨という子供が生まれ、そしてその二人の子供たちがそれぞれ自立しハナの手元を離れていくまでの13年間の物語である。

 本研究のねらいは物語としての「おおかみこども」に注目し、話型の解釈や、登場人物の姿を民俗学的・文化人類学的に解釈するものである。

まず確認しておきたいのは、この物語は異類婚の話型をもつことである。異類婚の話型とは昔話の「魚女房」を基準とすると以下の六つの法則がある。

第1法則 異類と人間とが出会う。

第2法則 異類が人間となり一方的に人間に求婚し両者が結婚する。

第3法則 結婚後のタブーがある。

第4法則 人間がタブーを犯し異類の本性が発覚する。

第5法則 本性が発覚すると結婚が破綻し両者は離別する。

第6法則 後日譚がある。

 「おおかみこども」では、第1法則は、花の夢の中で、実現される。第2法則は逆になっていて、花という人間の女が積極的に異類に接近し結婚する。第3・第4法則はないが、第5・第6法則はある。特に「おおかみこども」の物語はこの第6法則である後日譚が異様に長いものになっている。言わば、異類婚の話型の後日譚が異様に膨らんだ物語といってよい。ただし、上記の異類婚の法則は異類女房譚をもとにしているため、「おおかみこども」の彼は異類婿であるから、本来は異類婿譚をもとに法則を考えなくてはならない。しかし、異類婿譚の場合、猿婿入りや犬婿入りの多くは異類婿は殺され、子孫が残される話ではない。その点を考えると、三輪山神話をもとに異類婚の法則を作り直し、改めて「おおかみこども」と照らし合わせる必要があろう。

次に「おおかみこども」の物語を読み解くうえで重要なのは花の人物像である。

筆者は花を巫女であると位置づけた。なぜなら、花は巫女的な特殊な能力をいくつかもつことが彼女のしぐさや精神性に確認できるからである。

 彼女の特殊能力の一つは他界とつながることができることである。例えば物語の中で花の夢が三回描かれる。イ)オープニング、ロ)彼の死後の直後、ハ)息子の雨が山へ行ってしまったとき。イは予知夢。これから出会うであろう彼をシルエットで見る。ロは死んだ彼を他界の境界まで追う。ただし、花は彼には追いつけず、そのままこちらの世界へ戻ってくる。ハは死者である彼と会う。この死者と会うというのが重要である。すると、彼女は憑依型の巫女ではなく、脱魂型の巫女に近いのではないか。つまり花は他界とこちらの世界を夢の中ではあるが行き来できる特殊な能力をもつ女性なのだ。

 彼女の特殊能力のもう一つは〈笑い〉である。彼女の〈笑い〉は呪術的な行為である。例えば、パプアニューギニアのカルリ族の歌合戦「ギサロ」では、聴衆が対戦相手側の歌い手たちを笑わせるという行為があるが、なぜなら、笑いによって、相手側の歌に引き込まれないようにするためである。ここでは、笑いが歌のもつ呪力に対抗する行為として、つまり、相手の歌の力に抗う行為として存在する。〈笑い〉は呪力に抗う行為である。すると、花の〈笑い〉は、このカルリ族のギサロにおける笑いのはたらきと同じように思われる。なぜなら、困難極まりないとき、或いは、悲しみの絶頂のとき、花は〈笑う〉のだが、〈笑う〉ことによって、花はその困難さや悲しさに抗っていると思われる。花の〈笑い〉は、苦しみや悲しみを無化しようとする行為であり、これはリアリズム的な行為ではなく、むしろ呪術的と言える。

 以上のように花という女性は巫女的な特殊能力をもつ人物であるのだが、問題は、なぜ「おおかみこども」の物語に花という巫女が呼ばれたのかということである。特に、この物語は子育ての物語であるとされており、なぜ子育ての物語に巫女なのか、また、なぜ異類婚なのか。今後はこれらの問いを明らかにしていく必要がある。



以上、飯島奨氏「『おおかみおとこの雨と雪』を読む」(2013年2月例会)の発表要旨でした。

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本発表では古典作品に登場するネコを取り上げ、
上代から中世初期までのネコの認識を時代ごとに追究した。

飼いネコは、奈良時代に大陸から日本に渡ってきたとされる。平安中期頃まではまだ希少な動物であったと目され、『枕草子』、『源氏物語』、『狭衣物語』、『更級日記』などの中古の古典作品には、貴族達に寵愛される愛玩動物として登場しており、紐で繋いで飼われるなどしている。

平安末期以降になると、ネコの生息数が増えたと目される。『今昔物語集』に於いてもネコが希少な動物であるという認識は希薄になっている。またこの時期、「のらねこ」という言葉も出現しており、野生化したネコの発生も推察される。
ところで、実は「猫また」などのネコの怪異譚が出現する時期は、「のらねこ」の発生した時期と重なっている。このことを受けて、ネコが希少な動物であった時代とは異なって、ネコに関して人々の眼の届かない側面が生じてきたことがネコの怪異譚が出現の要因の一つとして指摘した。
現実に於ける人とネコの関わりの在り方の変遷が、ネコにまつわる認識や表現、言説にどのように連関しているか。
今後は考古学の成果にも眼を向けつつ明らかにして行きたい。


以上、平成25年1月28日開催(於・青山学院大学)の第33回例会における発表要旨です(発表者:杉山和也氏)。

※次回は2月25日14時に開催します。

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本発表においては『女郎花物語』所引の鷹説話の背景を探索することで、鷹書の知の領域を検討した。
『女郎花物語』では、『金葉集和歌集』(三奏本)(五六五)に基づく心変わりした男に、鷹の道を心得た和歌を詠じる桜井の尼の話、天竺摩訶陀国にて鷹を遣い始めた長水仙人の死後、その妻の夢で天女が錦の袋に入った薬の書を与え、これを国王に伝授したことにより俸禄に与った話、仁徳朝に来朝した高麗国の鷹飼が、孤竹という女と契り、三年を経て帰国する際に鷹の秘術を伝授したという鷹の伝来説話の三つの鷹関連説話が記される。
この説話の背景として鷹書の世界を想定し、以下三つの観点から検討した。

1、政頼の「思ひ妻」説話
『金葉集』歌は天下無双の鷹飼として喧伝されていたせいらいに関わる説話として鷹百首注に取り込まれ、鷹百首注を取り込む『藻塩草』により連歌の知として浮上した。

2、「こちく」説話
鷹の伝来説話における「こちく」は鷹書のみではなく、連歌や庭訓往来注の世界でも影響が確認された。

3、鷹の薬水
鷹の薬水に関する説の背後にこちくを読みとくことによって、『女郎花物語』長水の妻に通じる女による鷹の療治に関する伝承を検討した。

秘伝とされ、独自の知を築いてきたようにみられる鷹書の世界であるが、和歌・連歌の学のもとで説話を生成し、そこで生成された知は再び連歌の知にも投入され、一方で枝分かれした形で鷹書独自の秘伝・秘説に結実していく。鷹書という知のありようは多様な展開を遂げる中世最末期の知の基盤を解く鍵となるのではないか。


以上、発表者大坪舞氏による要旨でした。
なお、本発表内容は近刊の学術誌に掲載されます。
刊行されましたら、本ブログ上でもご報告します。

さて、次回は今月下旬に開催します。
詳細は近々ご案内します。
初めて参加ご希望の方はご一報ください。
歓迎します。

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年齢:
15
性別:
非公開
誕生日:
2009/09/15
自己紹介:
新宿ミュンヘンで誕生。

連絡先:
gijinka☆way.ocn.ne.jp
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