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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル:
広告塔としての件(クダン)-『依而如件』の意義-


発表者:
笹方政紀氏


要旨:
 人面牛身の異獣「件(くだん)」(以下、「クダン」とする)は、コロナ禍で疫病退散の象徴として注目された「アマビエ」と同様の存在であり、その特徴として特に予言をすること、そして予言は外れないという点がピックアップされた。しかし、クダンには他に「その言うこと一言は正しい」という重要な特徴もある。それは「依而如件(よってくだんのごとし)」の言葉で表現され、予言をすることよりも以前にクダンに備わるものである。
 本発表では、近世から近代にかけて、クダンと「依而如件」の関係を確認するとともに、「如件」の文字を伴うクダンを商標とした「痔薬」と「鋸」の2種類の広告について考えた。
 岡山に本店を有した「肛門薬商会」(痔薬)のクダンの姿を標した広告は、岡山駅近くにあった地元の大きな看板から、特約店・販売店を拠点とした琺瑯(ホーロー)看板、そして新聞・雑誌の紙面において掲載された広告と展開されることで、地元周辺だけでなく全国規模に広がるものであったことが窺えるものであった。記事広告では「効能書に嘘は言はぬ」という意味でクダンを商標として選んだという。その広告の反応は幾つかの民俗資料などにも残されている。「肛門薬商会」は昭和の戦前には輸出も始め、戦後しばらく続けたのち店を閉じている。
 熊本の人吉市に店舗を構えていた「件鋸店(件鋸製作所)」では、製作した鋸の両面にクダンの商標を刻印していた。大工町の店舗や向かいの工場付近では複数の看板広告があった。店舗では入口上部に鋸を模した看板が、また、ショーケースにも立て看板が掲示され、クダンの商標と共に「クダンハウソヲイワヌ」の言葉を添えられていた。これら存在感のある看板広告は鋸を必要とする林業従事者だけでなく、観光で訪れる者にも大きなインパクトを与えるものであった。
 クダンの商標はどちらも「如件」を伴うものであり、「如件」、つまりクダンの「その言うこと一言は正しい」ことをもって、商品の有効性や出来(切れ味)を保証するものであった。ともすればクダンは予言をすることが取り上げられがちではあるが、正しいことを言うことは、原初的であり、かつ、クダンの根幹をなす特徴であるといえる。今後もクダンの広告に関する資料を集めることで、さらに当時の人々がクダンを求めた心性を解き明かせるものと考える。(文・笹方政紀氏)

※第112回は8月21日(土)15時、Zoomにて開催しました。
 次回は9月26日(日)15時、Zoom開催。

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タイトル:異類「リュウグウノツカイ」の怪異の諸相
発表者:寺西まさひろ氏

要旨:
 本発表では、まず大きく三つのテーマに分けて魚類・リュウグウノツカイをめぐる怪しい話題についての説明を行った。
 「名も知れぬ魚からリュウグウノツカイへ」では、リュウグウノツカイという和名が定着するまでの経緯、及びそれ以前の幕末・明治期にリュウグウノツカイという名を用いずにこの魚の出現が記録された例を示した。その上で現代においてリュウグウノツカイが紹介される際、その名前と姿による印象を反映して「神秘」「龍宮の使者」といった修辞をもって語られる傾向にあり、それらが創作物のなかのリュウグウノツカイ像にも反映されていることを示した。
 「何物かの正体としてのリュウグウノツカイ」では、この魚が「人魚」や「大海蛇(シーサーペント)」の正体とされる言説の発端や性質について概観し、それらが生物図鑑の豆知識欄などに頻繁に用いられて雑学的話題として広く受容されていることを確認した。さらに昨年からは「アマビエ」とリュウグウノツカイを関連付けた創作表現が増加しており、数名のクリエイターによるリュウグウノツカイの要素を使って表現されたアマビエのイラスト作品を参照しながら、実在生物をモチーフとした妖怪表現の特質や傾向について考察する端緒とできないかという旨を述べた。
 「凶兆・吉兆としてのリュウグウノツカイ」では、リュウグウノツカイの出現が地震など災害の前兆といわれること、また反対に豊漁などの吉兆といわれることについての具体例の確認や検証の過程について検討した。科学的な仮説として発表された地震の前兆説が曲解を含みつつ都市伝説化していった側面があること、さらに近年の検証により地震との関連が否定され、明確に「迷信」と扱われる場面が増えたことを確認した。吉兆の話題では、リュウグウノツカイが吉兆とされるのは日本の古くからの伝承と称されながら根拠が不明確であること指摘し、その具体性のなさを補うように、報道などでは個人の希望を反映したり、パワースポット観と関連した内容が記されていることを示した。それ以外では水族館のイベントやアマビエとの結びつけを経た結果、リュウグウノツカイが人々の願い・祈りと寺社と媒介する図像として機能している事例も興味深い話題として紹介した。
 最後にリュウグウノツカイが実話怪談やホラー小説でも効果的に用いられていることも紹介し、この魚が様々な領域で活躍しており、重層的に形成されていったそのイメージについて更なる分析や事例収集の余地があるのではないかという旨を述べて発表を終了した。

 質疑応答とzoomチャット欄では多岐に亘る話題提起と資料の提示していただいた。
まず発表者が取り上げていなかった資料として、『献英楼画叢』に収められた雌雄の魚(リュウグウノツカイ)の図、明治17年、24年の新聞記事などが挙げられた。記事からは漂着したリュウグウノツカイと思しき魚に酒を飲ませて海へ帰したという事例が確認でき、海亀や鮫などと同様の対応がとられた記録として興味深く思われた。海外の資料としてはルナールの人魚図、ギリシャ神話におけるケートスとリュウグウノツカイを結びつける説に関する論文が紹介された。
 このほか、説話や芸能を含む近世以前からの「龍宮」観の変遷、民話や伝説にみえるリュウグウノツカイ以外の龍宮からの使者について、龍宮からの「使者」であることの意味、中学生の世間話のなかで地震の予兆としてリュウグウノツカイの使いの名が挙がったこと、リュウグウノツカイを含む深海生物のブームについて、深海魚出現などの宏観異常現象がどのように扱われてきたか、といった話題についての議論があった。さらにはアニメ『キテレツ大百科』にリュウグウノツカイ登場回があること、リュウグウノツカイを調理して食べた結果をまとめた同人誌の紹介などもあり、各方面たいへん興味をひかれる内容となった。(文・寺西まさひろ氏)



※5月30日に開催した第109回の報告です。
 なお、次回は6月27日午後3時Zoomでの開催となります。

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「山田野理夫 その怪談と妖怪と美」

 発表者:式水下流氏

 水木しげるの妖怪解説にも多く影響を与えたのが、山田野理夫である。その話の初出を辿ろうとすると藤澤衛彦(前回参照)『妖怪畫談全集〜日本篇上』に行き着くが、それ以前までは辿れない。故に山田野理夫の評価は原義とは異なった妖怪の要素を(水木しげるを通して)流布させた人物として捉える人は少なからずいる。然しながら、山田野理夫の創作の経緯や技法、水木しげる以外に影響を与えた作品などを通して見ながら、その軌跡を俯瞰することで、現在の妖怪の情報の変遷とその価値を見ていった。
 山田野理夫は仙台に生まれ、両親から土地の民話を聞いて育っていた。(原話者に両親の名前も)その後、農林省の調査員、宮城県の編纂委員として色々な土地に赴いたことから東北を中心に聞書を行い、怪談収拾ノートとしてまとめていった。ノートは聞書した話だけでなく、調査した文献から抜き出した話も記載されていたことが、著作から推測できる。
 そこから話を膨らませて、土地土地の個性を崩さないように歴史的強度的抒情を意識したとあるので、一つの話(『宮城の民話』と『仙台伝説集』)を参考に創作の傾向を確認した。地の文を会話文にしたり、同一登場人物の別の話を組み込んだりもするが筋は大きく変えていないが、原文に書いていない誇張表現が幾つが見られた。
 この創作技法が妖怪に対してどのように使われているかを山田野理夫が多く採用している藤澤衛彦『妖怪畫談全集〜日本篇上』のキャプションとの比較も行った。取り扱った妖怪はうわん・イヤミ(否哉)・おとろし・神舞など藤澤衛彦の創作を採用し、山田野理夫が話を膨らませたケースやぬらりひょんや目目連のように山田野理夫がオリジナルで創作したケースを上げて、水木しげるやそれ以降の妖怪解説(図鑑・特撮・ゲーム等)に採用されている事例をあげた。真贋の判定が難しい上手い匙加減で創作されているものもあるが、明らかに誇張しすぎてしまっている例もあり、それらは用例があってもそのような妖怪であるとは思われていない
 また、別項でわいらと赤舌という二体の妖怪に関して細かく分析を行った。元々それらは図だけの特に説明のない妖怪であったわいらは「モグラを掘り食ふ」と藤澤がキャプションを入れたものに、雄と雌の色の話やモグラを食べているのを茨城県の医者が見たという話を更に水木しげるが自論を追加して、拡散されたがためにわいらが茨城の妖怪であるという話やモグラを食べるという話がわいらの要素になってしまっている。
 赤舌は「関口を開き悪業の田を流す」という藤澤のキャプションから農林省時代の水利や治水などの知識から青森の水争いの話とし、赤舌が水門を開くことで解決したという話を創作した。これらは山田野理夫が何を元にしてどのように話を膨らませているかが、よく分かる事例である。
 確かに辿れる情報が得られない状態では、学術的な視点としては、それらを典拠とすることは危険であると言えるが、山田野理夫は学術的に作品を発表していないので、その作品としては決して悪いと言うことにはならず、寧ろ民話や怪談や妖怪話として、情景が浮かび、流麗で読みやすい、素晴らしい作品であることは多くの人に知っていただきたい。
 今後は創作に使われた素材(実際にある伝承であれば、それを明示していく)がどのように変化したのか、それが発表されて以降どのように流布されていったかは引き続き調査していく。情報自体は個々の嗜好や研究の対象として取捨選択は異なると思うが、妖怪の変遷を考える上では、山田野理夫が与えた影響は避けては通れない道なので、少なからず整備はしていきたい。(文・発表者)

(2019年9月21日於武蔵大学)


次回は今月26日午後2時、武蔵大学にて開催します。
詳細は追ってお知らせします。

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〈藤澤衛彦〉関連資料展示会

日時:7月27日(土)17時
会場:國學院大學3号館3301教室
   ※正門左側(神殿の向かい)、食堂の入っている棟の3階です。
 
内容:
藤澤衛彦(1885-1967)は20世紀初頭から伝説研究に携わり、また児童向けの読み物も多く手掛けてきました。
その一環で妖怪関連の著述を行い、それらには貴重な資料も紹介されています。
今回、御田鍬;氏の所蔵品をはじめ、氷厘亭氷泉氏、飯倉義之氏の所蔵品など数多くの貴重な資料を展示します(各氏解説付き)。
初公開のものも少なくないので、この機会を見逃さず、ご参加ください。
 
※どなたでもご参加可能です。
※※上記三氏のほかに、藤澤自筆資料や旧蔵書、初版本などの関連資料をお持ちの方はご持参いただけると幸いです。
※※※藤澤については、下記のページもご参照ください。
  妖怪仝友会HP「藤澤衛彦情報まとめメモ」

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今井秀和氏
「平田篤胤『仙境異聞』にあらわれた「生物」観」

要旨:
江戸後期の文政年間、常陸国にあるという天狗の棲む世界と、江戸とを行き来していると自称する少年、寅吉が世間を賑わせた。国学者の平田篤胤による『仙境異聞』は、寅吉への聞き取りをまとめて著されたものである。そこには、寅吉が見聞きしたという「天狗」に関する詳細な情報などのほか、鉄を食う獣、四足を生やした鯉といった奇妙な生物をめぐる知識も記録されている。
昨年末に刊行された、平田篤胤著、今井秀和訳・解説『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』(KADOKAWAソフィア文庫)に付した注釈では、紙幅の都合上、仙境における「生物」の関連情報について充分に述べることができなかった。そこで本発表では、『仙境異聞』に載せられた「生物」知識と、和漢の文献に記された情報との比較を通して、寅吉らが紡いだ仙境の「生物」観に迫ってみることとした。
具体的には、寅吉が語った鉄を食う獣、四足を生やした鯉などをめぐる知識のほか、狐・鳥・人などが天狗になるという寅吉の説を検討対象に据えた。また、前近代から近代初頭にかけて実際に広く信じられていた、無生物から生物が生じたり(いわゆる「自然発生説」)、生物Aが生物Bになったり(筆者の造語「異種変態説」)という、近世後期にも強い信憑性を有していた俗説と、寅吉の語る内容との比較を行った。
その結果、上記のような『仙境異聞』の「生物」観は、当時知られていた文献知識と必ずしもイコールではないものの、両者の間に強い類似性が認められることが判明した。つまり、寅吉の語る内容に、彼独自の想像だけではない、同時代的な知識体系からの影響が想定されることが明らかになったと言えるだろう。
また、天狗などが姿を変える、いわゆる「変化」(へんげ)と、生物が姿を変える「変態」との間に、イメージ上の重なり合いおよびズレがあることも分かってきた。ただし、こうした分析の枠組み自体が今日的な認識に基づくものであり、今後の研究の手つきとして、今日的な生物観・生命観と当時のそれとの違いをどのようなかたちで把握し、論述していくのか、という検討課題も浮き彫りになった。
これからの研究の展開としては、今回行ったような、『仙境異聞』にあらわれた「生物」観を腑分けしていく試みを踏まえた上で、寅吉の語る内容と和漢の文献知識との比較作業を通して、寅吉の語りを構成するであろう情報の諸相に迫っていく、という方向性を想定している。
(文・発表者)



※これは4月27日、大東文化会館で開催された第91回例会の報告です。
※次回は5月25日午後2時、江古田の武蔵大学で開催します。

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14
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非公開
誕生日:
2009/09/15
自己紹介:
新宿ミュンヘンで誕生。

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