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異類(人間以外のキャラ)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・同人誌などジャンルを越境する会です。
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発表者:杉山和也氏
タイトル:
前近代東アジアの臨海諸地域に於けるシャチの認識 ―日本の事例を中心として―


要旨:
 クジラもシャチも中国古典世界の知識が網羅し切れていない存在であった。東アジアの臨海諸地域では近世以降、積極的な捕鯨を行うようになるにつれ、それぞれにクジラやシャチを〈発見〉し、実態に則した情報を蓄積していった。そして、それを元に従来の中国古典世界の知識と批判的に対峙し、またそれを相対的に捉えるようにもなっていった。
 日本では近世以降、捕鯨技術の向上を背景として、クジラの生態に関する情報が圧倒的な増幅を見せるようになる。このためにそれまで通用していた漢籍や仏典由来の「空想上の大魚」としての認識が相対化され、そして退けられていった。他方のシャチは、経緯は不明ながら中世以来、シャチホコと呼ばれる棟飾りの空想上の怪魚と深く関わって捉えられていた。また、シャチは味が「下品」であったことから、クジラほど積極的には捕獲されず流通量も少なく、それ故に人目に触れる機会が少なかったことが想定される。このために日本では「シャチの生態に関する情報」、「シャチホコと呼ばれる棟飾りの空想上の怪魚としての認識」、「漢籍由来の魚虎に関する知識」の三者について、後二者を退けることなく、むしろ同一物として整合性を求めて行く方向で考証が為されていった。前近代日本のシャチ観の特徴はこのように空想的な把握が色濃く残っていった点にある。
 ところで、シャチの〈発見〉をめぐって注目されるのは、シャチが群れでクジラを狩るという生態が東アジアの臨海諸地域の各所で〈発見〉されていった点である。自然界に於いてシャチは人間以外で唯一、クジラを狩る存在である。ところが、各所での認識や伝達された情報に異同があったことにより、クジラを狩る水棲生物に関する目撃情報が錯綜し、多様に展開していたことが確認できる。例えば『魚鑑』では蝦夷地からの情報と見られる「かみきり」について、クジラを殺す棟飾り様の姿の「鯱」とは同一視し得てはいなかった。また、十九世紀前半の朝鮮半島では、日本のクジラ類に関する知識が、漢籍由来の知識よりも信頼が置かれるという事例が認められた。李圭景の『五州衍文長箋散稿』は「魚虎(しゃちほこ)」についても、日本の『和漢三才図会』の記述を信頼しつつ紹介した上で、朝鮮半島に於いてもクジラを殺す存在として「長酥被」、「長藪被」という二種の情報を紹介している。同書が三者を同一視できなかったのには、前述の日本の「魚虎(しゃちほこ)」の空想性と、「長酥被」の情報に誤りが含まれていたことに要因が求められる。他方で十九世紀末頃成立と見られるベトナムの漢文資料『野史補遺』に記されたシャチのクジラ捕獲場面の描写は、『本朝食鑑』に所見のそれと驚くほど酷似していた。シャチは実際にクジラを捕食するという事実や、その動作の観察、そしてクジラの舌を好んで食べるという事実から、結果的にシャチという同じ現実世界の対象物(〈モノ〉)について非常に似通った言説が異なる地域に於いて生成されたということは、説話の発生の在り方という観点からも注目されるべきものであろう
 シャチの〈発見〉をめぐる言説については、先述のようにクジラを襲うという生態が自然界では基本的にシャチに限られるということから、人間達がこの事象をどのように捉えて言説を生じさせ、伝承し、それを知識として整理していったかという経緯をたどりやすい。人類がそれまでの古典知、ならびに自然観察に基づく新知見とどのように対峙し、その上でそれを表現し、また思考してきたかという問題を地球的(グローバル)な観点のもとに追究するには格好のものであると言えるだろうし、自然科学の領域との学際的研究が可能な話題でもあろう。西欧を初めとする世界の他所でのシャチの〈発見〉をめぐる言説との対照と検討については発表者の今後の課題としたい。(文・発表者)

以上は2019年1月26日の例会発表(於・青山学院大学)の要旨です。
次回は2月23日14時、青山学院大学14号館(総研ビル)6F14603号室で開催予定です。

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