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異類(人間以外のキャラクター)について研究報告・情報提供・談話をする集まりです。妖怪関連多め。時代や地域は問いません。古典文学・絵巻・絵本・民間説話・妖怪・マンガ・アニメ・ゲーム・同人誌などジャンルを越境する会です。TwitterID: @iruinokai
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タイトル:
疑似姉妹の心中と怪談
発表者:
嘉川馨


要旨:
 〈少女〉らによる疑似姉妹は、明治後期には既に少女雑誌に見られ、実際に女学校内で展開されていたと考えられる。疑似姉妹は、一部の女子教育者からは清らかな「友情」であると擁護されたが、新聞や総合雑誌などの一般メディアは勿論、学生向けの流行り言葉事典や、性欲研究書においても「同性愛」という病として扱われた。
 1911年の親不知海岸女学生心中以降、〈少女〉らの「同性愛」や疑似姉妹に対する社会的関心が高まっていった結果、〈少女〉らが共に自殺すれば、「「同性愛」が原因ではないか」という先入観をもって報道されるようになった。
 対して〈少女〉らの自殺についての記事が、〈少女〉のためのメディアである少女雑誌に掲載されることは、少なくとも大正期以降はほとんどなかったと考えられる。久米依子や佐藤(佐久間)りかによれば、少女雑誌が許容したのは清らかな「友情」としての疑似姉妹までであり、加熱した「同性愛」的な投書や投稿小説は、時代を下るにつれて排除されていったという。同様に、現実に起きた〈少女〉らの(「同性愛」的とレッテル貼りされた)自殺や心中に関する記事は、誌上から排除されていたのだろう。
 こうした〈少女〉と「同性愛」を巡る議論が乱立していた戦前の状況下においても、現実の〈少女〉の死が、女学校内で幽霊譚に発展していた可能性があることが、松谷みよ子による戦後の聞き書きから分かっている。注目すべきは、今回取り上げた実践高女の例では、元の事件(三原山女学生投身自殺)ではあくまで〈少女〉らの自殺だったにもかかわらず、「同性愛」が原因の心中であったと歪曲されている点である。この手つきからは、三原山女学生投身自殺――真許三枝子の自殺と松本貴代子の自殺――が、当時の新聞や婦人雑誌においては、まるで「同性愛」が原因であるかのように書き立てられたことを想起せずにはいられない。
 「同性愛」も〈少女〉の死も、あくまで〈少女〉向けメディアで排除されていたにすぎない。〈少女〉たちは何も少女雑誌だけを読んで生活していたわけではなく、新聞や総合雑誌などの一般メディアの影響も受けていた。また少女雑誌は「同性愛」を排除しようとしながら、疑似姉妹は「友情」として擁護せざるを得ないという矛盾を抱えていた。
今回の調査から、現実の〈少女〉の死が、女学校内では「同性愛」者の、つまりは疑似姉妹の幽霊譚として発展していたと推測できる。しかし現状、戦前に発行されたメディアからは、直接的な根拠となるような記事を発見できておらず、また今回取り上げることができた(戦後に採集された)当時の女学校の怪談・幽霊譚の数も極めて少ない。
 発表者はこれまで、主に戦前の少女雑誌を資料としていたため、今後は当時の新聞や婦人雑誌に加え、戦後に発行された資料でも、同窓会報や回顧録まで範囲に広げていくことで、さらに調査を深めていきたい。(文・嘉川馨氏)

※これは2022年6月26日(日)にオンラインで開催された第122回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者兼執筆者の名を明記してください。
※次回は7月30日(土)15時00分オンライン開催です。

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第122回開催のご案内

日時:
6月26日(日)15時00分
会場:オンライン(Zoom)開催
 
タイトル:
疑似姉妹の心中と怪談

発表者:

嘉川馨(a.k.a ぜんらまる)氏

要旨:
 戦前(明治後期~昭和前期)にかけて発生した女学生同士の心中が、女学校内で「心中を遂げた疑似姉妹の霊が出る」という怪談に発展していた可能性について検討します。



※来聴歓迎!
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タイトル:
神仏による「祟り方・罰のあて方」

発表者:
羽鳥佑亮氏


要旨:
  本発表では、神仏の祟り方・罰のあて方そのものに注目した。論じるにあたっては神仏による「祟り」や「罰」と表記されるものに加え、神仏の意に反したと記載、またそのようによみとれるものを術語として「祟り・罰」とし、その中から特に、似た傾向をもつと思われた、対象が疾病を患うもの、対象が事故に遭遇するものを俎上にあげ、「祟り・罰」の表現の変遷の大きな潮流を確認した。
  まず、対象が疾病を患うものについては、平安時代から室町時代にかけては、対象がどのような「祟り・罰」の原因とされる行為をとったにしろ、おおよそは、ただ疾病を患うのみであり、際立った特徴はなかったようだった。しかし、江戸時代からは、対象がとった「祟り・罰」の原因とされる行為から連想される疾病を患うものが増加する傾向にある。
  さらに、対象が事故に遭遇するものについても同様の傾向が認められ、平安時代から室町時代にかけては、対象がどのような「祟り・罰」の原因とされる行為をとったにしろ、おおよそは、ただ何らかの災難に遭遇するのみであり、際立った特徴はないようだが、江戸時代からは、対象がとった「祟り・罰」の原因とされる行為から連想される疾病を患うものが増加する傾向にある。しかしそれだけではなく、対象が事故に遭遇するものについてはさらに、江戸時代から、普通に生活していては遭遇することのない、いわゆる怪異や妖怪とされるものへ遭遇する、というものがみられ、これもひとつの潮流となるようである。
  こういった潮流が江戸時代に出現した要因としては、神仏や宗教施設の周辺で起きたことを「祟り・罰」であるとする認識の強まりや、「因果応報」として説明されたものが「祟り・罰」とされたことが考えられるものの、いずれも推測に留まる。しかし、これらの新しい潮流からは、どうやら「祟り・罰」の説話は、それまで霊験譚とされていたものから、耳を驚かせる怪奇譚として享受されるようになったあらわれであるといえそうであり、人々の興味が霊験から怪奇に移るという、さらに大きな流れの一端であろうと考えられる。

  質疑応答では、発表でとりあげた「神仏」の指す範囲について、形而上のもののみで権化を扱うかどうかについての御指摘や、とりあげられた事例についての補足の御意見があった他、プレ発表であったこともあり、発表の体裁や御指導も様々にいただいた。
  御指摘の箇所については応答ができなかった箇所もあり、今後の課題としたい。御意見に感謝を申し上げる次第である。

※これは2022年5月29日(日)にオンラインで開催された第121回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
※次回は6月26日(日)15時00分オンライン開催です。

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第121回開催のご案内

日時:5月29日(日)16時00分
会場:Zoom
 
タイトル:
神仏による「祟り方・罰のあて方」

発表者:

羽鳥佑亮氏

要旨:
 神仏は御利益をもたらすだけでなく、祟ったり、罰をあてたりする。従来、人々が神仏の祟りや罰をどのように考え向き合い対処したか、また、神仏は祟りや罰をもたらすことから、どのような存在とされてきたかは論じられてきた。しかし、神仏の祟りや罰がどのように表現され描かれてきたかについては、ほとんど論じられていないようである。
 そこで本発表では、神仏の祟り方・罰のあて方そのものに注目し、特に、対象が疾病を患うもの、対象が事故に遭遇するものから、神仏による祟り方・罰のあて方の表現の変遷について、大きな潮流を確認してみたい。
 
※来聴歓迎!
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タイトル:
近世期異類合戦物の見取り図
発表者:
伊藤慎吾


要旨:
 色々なものが擬人化して、「餅と酒」「酒と煙草」「魚類と青物」「藥と病」など、二つの軍勢に分かれて合戦を繰り広げる物語を異類合戦物と呼ぶ。
 中世後期に軍記物のコンセプトを受け継いで発展していき、近世期には物語文学・語り物文芸・草双紙・話芸・絵画・瓦版・落書など、様々なかたちで創作されていった。今回は「餅と酒」「酒と煙草」といったコンテンツがそれぞれどのように展開していったのかに注目しつつ、近世期の展開を提示していった。
 外国の文化に比して、日本文化は歴史的にも、現代にも、人間以外のものをキャラクター化することに特色がある。必ずしも擬人化されるものではなく、妖怪や神の化身として描かれるものも少なくない。中世後期になると、そうした人間以外のキャラクター(異類)同士の合戦物語が開拓されていく。その背景として、『平家物語』を主とする軍記物語の趣向が異類の文芸に取り入れられたことが大きい。その代表的な作品として、『十二類絵巻』や『鴉鷺合戦物語』『精進魚類物語』がある。それらはその後の文芸に影響を与えることとなった。
 こうして、近世に至ると、物語・語り物文芸における一つの潮流として展開し、物語・語り物文芸だけでなく、歌謡(語り歌)・謡曲(謡曲形式の戯文)・絵画(特に浮世絵)等の創作にも波及した。取り分け、赤本以来の草双紙でも瓦版物などと呼ばれる戯作(大寄席噺尻馬シリーズ等)では異類合戦物が好まれ、数々の新作が生まれた。
 その一方で、出版を目的としない創作物の中にも異類合戦物は多様に展開し、近世期の地方文芸の一ジャンルとして見做すことができる。
 また、版本を基にしながら、単に転写されるにとどまらず、大幅に加筆修正された異本も少なくない。更には、それらを台本として、祭礼における神楽(里神楽)として舞台で演じられることもあった。
 近代以降は西洋のSFやファンタジー、近代兵器による戦争物に吸収されていくが、しかし娯楽読み物や寄席の色物芸、地方における語り物文芸(滑稽物やチャリ物)として昭和戦後期まで命脈を保つことになる。
 以上が大きな見取り図である。
 さて、近世期の異類合戦物は、題材として、鳥獣虫魚・草木は言うまでもなく、食物・薬・家財道具・衣服など様々なものが見られる。その中で、〈酒と茶〉〈餅と酒〉〈精進と魚介類〉は中世以来の対立軸であり、異類合戦物を代表するものといえる。近世期は、それらをコンセプトとして、各地の酒・茶・餅(餅菓子)・料理の名が明記されるようになる。ここに、近世期の新しい嗜好品として、煙草の銘も加わり、〈酒と煙草〉という対立軸も成立する。
 その中で、『酒茶論』『酒餅論』『酒飯論』など、近世前期を代表し、戦前から知られた作品については、すでにいくつかの作品論が試みられている。しかしながら、それらは特定の作品を対象にしたものであり、全体を俯瞰すれば、まだ一部に過ぎない。およそ19世紀前半に餅酒合戦をテーマにした作品が数多くみられるようになる。
 これに比して酒煙草合戦は作品的な広がりは見せず、18世紀後半に合戦物と論争物がそれぞれ1点程度しか見出されない。嗜好品の多様化と庶民への浸透の中で、創作のテーマとして定着しなかったのは、餅・菓子や酒とは異なる煙草の文化的な要因があるように思われる。
 なお、『餅酒軍記』『餅酒大合戦』『魚貝英記餅酒合戦』といったいわゆる瓦版物は幾度も改版されていながら、諸本の関係性も解明されていないのが実情だ。今後の課題としたい。

※これは2022年4月24日(日)にオンラインで開催された第120回異類の会の報告です。
※上記の文章を直接/間接に引用される際は、必ず発表者名を明記してください。
※次回は5月29日(日)16時00分オンライン開催です。

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プロフィール
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14
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非公開
誕生日:
2009/09/15
自己紹介:
新宿ミュンヘンで誕生。

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